そして天使はスウィングする

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 ange-tech(アンジュ・テック)──。  仏語と英語を混ぜた奇妙な言葉……。  哲学者ジャック・デリダの著作、『パピエ・マシン』のように仏語と英語のミックスで呼ばれている業種や技術の存在はわたしも知っていた。文字通り、「天使(アンジュ)」に関わる先進技術……。  あの夜、わたしは大学に提出するレポートを書き終えてから、礼拝堂の掃除をしていた。礼拝堂は道路沿いにあるので気がついたのだった。牧師館二階の自室にいたら気づかなかったし、そうなるとラケルは出血多量で死んでしまっていただろう。  いや、先を急いではいけない。  なにかが投げ捨てられた重い音と、その後タイヤを(きし)ませて急発進で逃げてゆく自動車……わたしはいやな予感に怯えながら、礼拝堂の玄関から駐車場へ出た。  一糸まとわぬ女性……女の子、ぐらいの歳か……が芝生の上で倒れている。天使だ、とすぐ気付いたのは、ちゃんと羽根がついているからだった……ただし、右側だけが。  左の羽根はもがれたようで血が流れている。
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