1話

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「お先に失礼します」 「お疲れさまでした」 定時後の退勤時には、そう人が多く残っていないから静かなものだ。 ここは、大手住宅設備メーカー【株式会社 J.C.House】 具体的には、主にシステムキッチンやシステムバスを提供する会社だ。 私、阿部万里奈(あべまりな)(29歳)は、開発営業部所属でSP活動担当。セールスプロモーター活動として、主に商品の性能や機能を広くPRする営業活動をしている。 男女比のバランスのよい部署で、思いきり働けることがとても楽しい毎日。 「ただいまぁ」 誰もいない部屋に向かって大きめに声を出すのは、一人暮らしをカモフラージュするためのささやかな防犯対策であり、もしも侵入者がいたならばベランダから出て行ってください…という鉢合わせ回避策。 簡単にカモフラージュ出来るとも思っていないけれど、気休め程度の日課だ。 そして留守番タイマーですでに明るい部屋へ入る私は、超真面目仕事人と言われることもあるけれど…それは会社でのことで、ほんの少し怖がりなのかもしれない。 そして ふぅ~ バリバリと働いたあとのこれが最高…だと思い込んでいる。 鉄瓶で沸かした白湯を飲んで “帰ったぞぉ” とおうちモードになるのだ。 でも、あまり周囲に共感を得られないから、思い込んでいるだけなのかも…… みんな、なんでこの鉄瓶の美しさが分からないのだろう…と目の前の鉄瓶を指先で撫でる。 私は最新のシステムキッチンなどの営業をしながら、自室では和暮らしを取り入れるというギャップによって、リセットされるんだよね。
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