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ロードアイラン公爵は、その地位と順調な仕事ぶりで貴族社会では
安定した日々を過ごしているのだが、ひとつだけ悩み事があった。
末娘のアメローナが生まれつき病弱なのだ。
世界中の名医に治療をさせたが、経過はよくならず、学校も休みがち。
家庭教師を何人も雇い、豊富な知識と教養は身に付けることができて
16歳で社交デビューしたときは、その美しさに誰もが引き付けられた。
コルセットをきつく感じないほどの細いウエスト、艶のある黒髪。
瑠璃色の大きな瞳、ルージュにきらめく薄い控えめな唇。
そして完璧な社交マナー。
これは嫁取り争奪戦になる前に、嫁ぎ先を即急に決めねばと話したが
彼女が社交の場に出たのはそれきりとなった。
病気が進行して自室でしか過ごせなくなったからだ。
魔法使いの魔術にも頼ったが、それでも無理だった。
ちなみに、この世界では精霊や妖精は階級が低い。
それらにも相談はしてみたが、成果は無かった。
アメローナは正装どころか、部屋着のドレスをまとうこともないままで
ネグリジェ姿の日々だった。
すぐに具合いが悪くなるので、すぐにベッドで寝れる為にと。
それでも家庭教師に学んで学生として得れる範囲までを取得して資格も
いつくつか得た。
数時間、勉強しては、一日は寝込み、それを繰り返しながら......。
どんなに手入れをしても髪はパサつき、頬がやつれている。
元から容姿は美しいが、潤いが足りなくなっていた。
だから人前に出ることを自身が嫌がった。
今では家庭教師が来るときは布を頭にかぶり、目から下にスカーフを
巻いて隠しているほどだ。
「良い縁談もいらない、褒められる知性もいらない、健康が欲しい」
アメローナも家族も、それを望んでいた。
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