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【4.遅れてきた天使】
そこへ、おでこに絆創膏を貼った天使が、息を切らしながらバルコニーから大急ぎで入ってきた。
弓矢を持ってる。
ミラはその顔を見て、「あ、あのときの天使だ!」と思った。ミラに恋の矢を射ようとした天使である。
絆創膏の天使は、他の天使がいることにも無頓着な様子で、今度こそはと大真面目な顔をし、折れ曲がっていない矢を矢筒から取り出すと、弓につがえた。
そして、大きく振りかぶって真正面からミラを狙った。
ミラは苦笑した。
この流れは、私の運命の相手はライル様ってことよね?
ライル様の傍にいる天使たちのおかげで彼の本当の気持ちが分かったから、相手がライル様というところは別にいいけどね、とミラは思った。
――というか、今? 遅くない?
でも、ライル様の傍の天使たちのジェスチャーに気を取られたせいで、ちっともプロポーズに集中できずに『いいとこ』逃した気分なので、盛り上げるためにも矢でも打って私をライル様に夢中にさせてほしい、とズレた理屈でミラは思った。
ミラが、天使に向かって指で胸をとんとんと示すので、ライルは何のことかと怪訝そうな顔をした。
絆創膏の天使は悪戯っぽくペロッと舌を出して矢を射た。
矢は物凄い勢いでぶすっとミラの胸に刺さった。本物の戦闘用の矢だったら即死の勢いだ。
しかし、この矢はちっとも痛くなくて、むしろあたたかくて心地よかった。
パンッと目の前が開けて、明るい春の野をゆっくりと歩いている気持ちになった。
目の前のライル見ると、急に心の奥が温まる感じがして、きゅっと心が高鳴った。
ミラはライルに微笑みかけた。
ライルは真っ赤になり、嬉しそうに口元がほころんだ。
絆創膏の天使は得意そうな顔で空の弓をライルに向けて、指を弾く真似をした。
ライルの傍の天使の一人が、胸に手を当てて矢の刺さった真似をした。
そして、別の天使がライルを胸を指差した。
ああ、とミラは思った。
絆創膏の天使は、私の前にちゃんとライル様を矢で射ていたのね。
そして、ライルの傍の天使たちがもう一度一斉に指でハートマークを作った。絆創膏の天使もハートマークを作り、そろって満足そうにバルコニーからふわふわと飛び立っていった。
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