【1.特殊能力】

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【1.特殊能力】

 ミラは、子どもの頃から人とは違う景色を見ていた。  ミラには神に使わされた天使の姿が見えるのだ。  みんなが見えていないだけで、おびただしい数の天使は、そこら中をふわふわしている。  天使たちは幼い姿をしたものもいるし、成熟した美しい容姿を持つ者もいる。  神の加護を運んだり、悪いことしていないか見張ったり、予言や占いを伝えたり、恋の矢を放ったり。  空を見上げれば、天界と下界を忙しそうに行き来する天使たちが、遠く近くに……ざっと200~300人は数えられるし、地上に目を向けて見れば、そこにいる人間10人に1人くらいの割合で天使がなにかしらの接触をしようとふわふわ近くを(ただよ)っている。  物心つく前から見えていたと思うが、今となっては他の人には「見えていない」ということが分かっているため、天使のことは誰にも言っていない。  しかし、人間の周囲にいる天使たちの表情や仕草からその人間に何があったかなどが分かってしまうことがあるので、ミラは人より「(かん)の良い人」扱いをされている。  1年前には、王宮の一般用庭園をぼんやり一人で歩ていた時に、なんだか視界の(はし)の方の物陰に天使が5~6人いるなと思っていたら、その天使たちがミラの方を一斉(いっせい)に振り返って、ぎょっとした顔をしたのだ。あろうことか、天使の一人はミラに向かって指を差した。  天使たちはあまり人間に対して過干渉(かかんしょう)になることはないが、好奇心いっぱいなので、興味がある事には集まって(のぞ)く習性がある。  また、たいそう無邪気(むじゃき)なので、思ったことが表情や行動に表れやすい。  そして、そのときみたいに天使がぎょっとした表情をするときは、たいがい後ろめたいことを隠しているときなので、()れっこのミラはくるりと行き先を変え、天使たちの方に向かってつかつかと歩いて行った。  天使たちは、「知~らない」とそっぽを向く者、罪悪感で目をぎゅっと(つむ)る者、おろおろと体を揺する者、とそれぞれの反応だったが、物陰で天使たちのその態度の原因を見つけたミラは驚いた。  ミラの婚約者ジャマル・レグトン伯爵令息が、見知らぬ女性と固く抱き合いキスしている真っ最中だったから。  婚約者は近づいてきた人間の気配に「ちゃんと物陰でやってるだろ、邪魔するなよ」と言った警告の視線を投げかけようとしたが、その邪魔者がミラだったので、みるみるうちに狼狽(ろうばい)した。 「あ、いや、これは――」  天使たちも「あちゃー、見られたー」といった顔をする。  下を向く者、慌てて空に飛び去る者、不安そうに手遊びする者……。 「何をしてるの……」  ミラは婚約者に行っているのか、天使に言ってるのか分からない気持ちになる。  結局言いたいことの半分も言えないまま、ミラは天使の視線の方が()(たま)れなくなってしまって、その場を離れ、そして淡々と親に報告し婚約を破棄したのだった。  そのときは、ミラの元にも正式に「神からの使い」として天使が派遣され、「慰め」をもらった。  ミラ目当てに天使が来たときには「ああ、私にか」とすぐにピンときて、やや事務的にだったがすんなり受け入れることができた。  ミラに派遣された天使の方は、ミラが天使の姿を見れることや、元婚約者の浮気の発覚が天使きっかけだったことを知らないので、スムーズに仕事を完遂(かんすい)できたことをただ単に「ラッキー」と思ったようだったが。  とはいえ、あまりに簡単な仕事だったので、「これで、仕事は終わり? 何か見落としはないか」と逆に不安そうな顔をして、振り返り振り返り去っていった。  ちなみに、のちほど、元婚約者から、 「浮気がバレたって言ってもさ、ミラがあんなところまで単身乗り込んでくるなんて思わないじゃないか! あいつストーカーかよ!」 と全く反省していない口調(くちょう)愚痴(グチ)っているというのを(うわさ)で聞いた。  さすがにミラも苛立(いらだ)ち、「ざまぁされますように」と神に祈っておいたので、天使が何かしらの鉄槌(てっつい)を下してくれるものと信じている。
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