3人が本棚に入れています
本棚に追加
その度に、女の心を満たす苦しみは、男の心へと流れ込んだ。その想いを共有した二人は共に深い悲しみへと沈んでいったのだった。
『私は、女を想い動けば動くほど、彼女を傷つけてしまっているのではないか。私は動くべきではないのか?だとすれば、私が存在する意義とは…。あぁ、私はどうすれば彼女を傷つけることなく想いを成し遂げる事ができるのか…』
男のこの深い苦悩は、すぐさま女の心にも映り込んだ。彼らは一心同体―互いの想いや、悩みさえも呼吸のように当たり前のように共有される存在だったから。
二人の想いが寸分違わずピッタリと一致していた時には、綺麗な円を描いていた。しかし今や、互いの想いは少しずつずれ始めており、重なり合うたびに、意図せぬ軋(きし)みを生み出していた。その軋みは、やがて互いを傷つける刃となっていった。
女は、男の心を満たす苦悩を、我がことの様に優しく受け止めていた。そして、長い沈黙の後、ある決意を固めた。
最初のコメントを投稿しよう!