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何十回も刺されているが、まだ意識のある未奈は口から血を垂らしながら何かを言っている。
未奈ちゃんは最後に何を言いたいのだろう? そうアンジェリクが思った瞬間、これまでフィルターがかかっていたような視界がクリアになり、周囲の音とともに未奈の声を聴きとることができるようになった。
「お願い、やめて、アンジェ」
未奈の言葉を聞いて驚くアンジェリクは、自分の右手にナイフが握られており、自らも未奈の返り血で真っ赤に染まっていた。
「え、これって歌織ちゃんじゃ……、何で私が……」
一気にパニックに陥るアンジェリク。その横では命の灯火を消していく未奈の姿がある。
「歌織ちゃん、なんで、なんで」
「あんたもあたしの復讐の対象だからよ」
いつも間にか、アンジェリクの隣には歌織の姿があった。
「復讐の対象? なんで、私が」
アンジェリクは、思考が追い付かない中、必死に現状を把握しようとしていた。
「あの日、あたしは未奈たちに宝物だった髪の毛を強引に切られた。まさに絶望ってこういうことなんだって味あわされた。その足であたしはマンションの屋上に向かった。もう生きているのも嫌になってしまい、楽になろうと思ったの。でも、そんな時、アンジェの顔が浮かんだの。未奈たちのいじめに必死で耐えて、つらくても学校にくることをやめなかったアンジェの顔が浮かんだのよ」
歌織はすでにこと切れた未奈の身体を、リズムを刻むように軽く蹴っている。
「だから、あたしは最後にアンジェ、あなたに電話をしたの。あなたが20コール以内に電話に出てくれれば、あたしはまだ頑張ろうって思ったの」
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