un angel passed

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 冬といえども日中の暖かさを導いていた赤い陽光が、一瞬優しい青となり、やがて全てを覆い尽くすように黒へと変わる。  学生服を着た一人の少女は、自身が住むマンションの屋上でそんなブルーモーメントを眺めていた。  彼女の姿は屋上を囲うフェンスのにあり、今まさに彼女の足は屋上から何もない空間に向かって歩き出そうとしていた。  そんなタイミングで、彼女の携帯電話が無機質ベル音を響き渡らせ、着信を告げている。  一瞬身体を強張らせたあと、少女は足を止めて、フェンスの内側にある携帯電話が入っている学生鞄を見つめている。  7、8、9……  少女は瞬きを忘れて、ベルの響きを数えている。  18、19、20……  着信音のベルの響きが20回を超えたことを確認して、少女は全身の力が抜けたかのようにその場にしゃがみ込んだ。 「こわかった……」  絞り出すように発した声とともに、少女の目からは涙が溢れ出す。  いつの間にか、携帯電話の着信音は聞こえなくなっていた。
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