un angel passed

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◆◇◆◇ 「あっ、未奈(みな)、おはよー」  ガヤガヤと賑やかな教室の中で夏美(なつみ)のひときわ大きな声が響き渡る。教室の後方のドアから、肩口までの艶のある綺麗なストレートの黒髪の少女が入ってきた。未奈と呼ばれたその少女は、まっすぐに自分の席に鞄を置き、椅子にコートをかけた。 「おはよう、夏美、夢香(ゆめか)」  未奈は腰かけると同時に集まってきた二人に挨拶を返すと、周囲を見渡してから二人に尋ねた。 「祐美(ゆみ)は? まだ来ていないの?」 「うん、まだ来ていないよ。連絡もないし」 「あたしのところにも連絡来ていないよ。休むなら連絡の一つも寄こせっての。ねえ、未奈」  縦にも横にも大きな夏美と小柄でおしゃべりな夢香が応えた。 「ふーん。祐美が連絡もなく休むなんて今までなかったわね」  やや吊り上がった目を細めて、不快そうに未奈が呟く。  女子高であるこのクラスのヒエラルキーのトップに君臨する未奈。その取り巻きである夏美、夢香、祐美の三人。その一人である祐美が、自分に連絡もなく学校に来ていないことに未奈はイラ立ちを感じていた。 「アンジェ、あなた、祐美のことを何か聞いてる?」  未奈はいきなり隣の席で静かに座っていたアンジェリクに話を振った。 「え、いえ、あの」 「ああ、別にいい。あなたに聞いたって分かるわけないことは知っているから」 「す、すいません」 「いちいち謝るなよ、うざい」  未奈からの理不尽な対応にも、アンジェリクは音にならない声ですいませんと発して、長いストレートの金髪ごと机に向かい項垂(うなだ)れた。 「祐美はアンジェの連絡先なんて知らないって」 「夢香の言う通りだよ。祐美はアンジェと繋がってるなんてありえない」 「私の許可なくアンジェとつながるなんてありえないわよ。それより、祐美がどうしたのかよ」 「そうだ、祐美、どうしたんだろうね」  そう夢香が発した直後だった。ガヤガヤと賑やかだった教室が一斉に静かになった。まさに、シーンという音があたりを支配したかのようだ。 「幽霊が通った」  未奈が最初に沈黙を破った。
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