芽吹き

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芽吹き

「山田くん、授業中にスマホは見ちゃダメだよ」 「あ、いいんちょー。ごめんごめん」 そう言いながらも山田はラインの トーク画面を開いている。 みのりはため息をついて苦笑いを浮かべた。 「仕方ないな。今回だけだよ。 授業中は見ないようにしてね」 山田は以前とは考えられないようなみのりの態度に 口をパクパクさせた。 「い、いいんちょー……一体どうしたんだよ……」   「ふふふ。ちょっと 考えさせられるような出来事があってね」 みのりは意味深に微笑む。 あれからみのりは過度な注意をしなくなった。 それは涙に自分を蔑ろにするなと 言われたことが根底にあったからだ。 おかげで随分と心が楽になった。 涙くんは私の恩人だね。 涙くんって不良だと思ってたけど お兄ちゃんに似て優しいんだよね。 涙が教室に入ってきたのに気づいて 声を掛けようと立ち上がると その腕に女子が絡みついているのが見えた。 え?? 「涙〜っ!昨日は楽しかったね!」 アニメのような声がこっちまで聞こえてくる。 「……」 「もうっ涙ったら釣れないんだから。 涙のすごく良かった」 その言葉が頭にガツンと衝撃を与える。 まさか、2人は恋人同士?? ふーん、そう。 昨日はお楽しみだったようね。 「おはよ」 涙がいつものように声を掛けてくる。 みのりはそんな涙を無視してテキストに シャーペンを走らせた。 自分でも何故そんな行動を取ってしまったのか 不思議だった。 「おはよってば ……? なんで無視すんだよ?」 ……そんなの私だって分からない。 この胸に湧き上がる感情の正体は。 みのりはどこか既視感のある感情に首を傾げた。
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