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止まっていた時が動き始める
「ああ、兄貴が言ってたのは桜庭のことだったのか」
思い出したように天井を見つめる涙。
「……優斗くんが何か言ってたの?」
不思議に思いつつ目尻の涙を拭う。
どんなに辛い思いをしたことだろう。
優斗の気持ちを思うと苦しかった。
わたしが助けてあげることができれば
彼の世界は変わっていたかもしれない。
でも、できなかった。
「兄貴は『みのりちゃんと話すのは楽しい』って
いつも言ってたぞ」
その何気ない優斗の言葉に
胸が撃たれたかのように波打った。
大粒の涙がポロポロこぼれ落ちる。
優斗はみのりのことを
嫌いになったわけではなかった。
その事実が嬉しいけれど切なくて。
みのりは布団をギュッと握りしめた。
「だから、お前も兄貴みたいに
色々考えすぎるなよ。
アイツはお前のせいで死んだわけじゃない」
涙が涙を流しながら優しく言う。
彼も辛い思いをしたはずなのに。
その優しさが痛かった。
みのりは涙に抱きしめられながら
嗚咽を漏らした。
「でも、わたしは優斗くんの分も」
「兄貴だってお前がいつまでも苦しんでいるのは
望んでないよ。だからそろそろ前を向けよ」
「……青野くんって意外と優しいのね」
「おい、今まで俺を何だと思ってたんだよ」
「不良」
「不良じゃねーよ!」
涙を浮かべながら2人で笑い合う。
優斗くん、こんなに優しい弟がいて
幸せだね。
わたし、今まで優斗くんのために
頑張らなきゃ、ちゃんとしなきゃって思ってた。
きっとそれは優斗くんへの罪悪感からの行動だった。
でも青野くんに言われて気づいたよ。
君はわたしが苦しんでまで正義を貫くことは
望んでいないって。
ねぇ、そうでしょ?
「優斗くん。さよなら。
わたし、優斗くんに出会えて幸せだったよ」
みのりはようやく前を向けた気がした。
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