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4,選択意志バイアス
琥太郎が目を覚ますと、酷い鈍痛に体が軋んだ。
味噌汁の香りが寝室にまで漂い、彼は二日酔いの体に鞭を打って立ち上がる。扉を開けるとキッチンに立つ真由子の後ろ姿と、それを邪魔する小太りの娘、夏帆がじゃれ合っていた。
「真由子?」
と、彼は言った。ポニーテールを揺らして彼女が振り向く。
「あっ、おはよう琥太郎くん、今日だよね? 誠二くんと千紗が来るのって」
「ん? ああ、そうだっけ?」
「もう、ちゃんと確認しておいてよ」
彼女は頬を膨らませているが、怒っている様子はなかった。
「なあ、今日は二人で食事に行かないか?」
「え? どおして?」
「いいじゃないか、たまには二人でも。夏帆は母さんに見てもらえばいいさ。それに、真由子の話を聞きたいんだ。カラオケボックスでの不思議な話、良くしてくれただろ?」
「もう、どうせ信じてくれないくせに。でも良いよ」
琥太郎は充電器に繋がれたスマートフォンを手に取りメーラーを立ち上げたが、迷惑メール以外のメッセージは入っていなかった。安心してラインを開き、誠二のトークルームに文字を打ちこむ。
――悪い、今日は真由子と二人で食事をするからまた今度、千沙にも宜しく。
すぐに返信があった。ラインムーンが親指を立てているスタンプだ。琥太郎はふっと息を漏らし、自嘲するような笑みを浮かべてからキッチンに入ると、大きな娘を抱き上げて、その頬に触れるようなキスをした。
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