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彼はひきこもり
人の悪意が人の心を破壊する。
心的外傷を患う以前の彼は様々な組織・団体において非常に優秀な人材であった。
今はひとすじの希望も見えぬひきこもり。
生きることに疲弊し、また死ぬ気力さえ湧かぬまま、狭く固い混凝土の一室で無為に命の火が消えるのを待っている。
(音が…怖い…)
彼は日常のなんということのない物音さえも怖れた。
それは彼がかつて物音がすれば人が死ぬ可能性がある職業に就いた経験故であった。
そのような職業とは。
たとえば戦場のような場所にあっては、敵の奇襲・夜襲などがあればほぼ必ず誰かが死ぬであろう。
それは特殊な例であるが、一般の人が思いもしない日常の中にもそのような世界が事実存在しているのだ。
「彼」はそれを話したくない。
(この世のすべての音を書き消してくれるような歌が聴きたい)
彼は日常の人の世にあってそのようにただ願うばかりであった。
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