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「まあ、言いたいことは分かるけど。昔のことだし、俺は気にしてない」
「……そう」
気にしていないという彼の言葉を、どう受け止めればいいのか分からない。
私は気にしていた。翔と別れて十年、別々の土地で暮らしていながらずっと。だけど翔は、東京に行って私のことなんてただの旧友としか思い出さなかったのかもしれない。いや、思い出してくれたのかさえ怪しい。たまたま島に帰ってきて、思い出を振り返ったところで私の存在が思い浮かんだだけなのかも。そう思うと、やるせなさに胸が疼いた。
「とにかくさー、こっちでの知り合いで仲が良かったのって、朝香と菜々、隼人しかいないんだよ。それ以外の友達、みんな淡路島を出たって聞いたから。探せばいるんだろうけど、探してまで会いたいやつもいないし。だから、これからまたよろしく!」
少年みたいな笑顔を浮かべて右手を差し出してきた翔。その手を取るべきかどうか、迷った。私が動けずにいると、翔は不思議そうな目を向けてきた。ああ、翔は昔から変わらない。いつだって、自分のペースに人を巻き込もうとする。それがいやらしくなくて、自然と翔の言う通りに動いてしまう。私はそっと彼の手を握った。握ってしまった。
「ん、ありがとう。そういえば今日ってさ、七夕じゃね?」
「ああ、確かに。七月七日だね」
「天の川見えるかな」
「この辺は街灯もないから見えるんじゃない。てか、昔見たことあったよね」
「あったあった。付き合いたての頃だっけ。二人で並んで見たね。あんまり綺麗だったからつい見惚れて、帰りが遅くなって朝香、おばさんに怒られたって言ってたな」
「よくそんなことまで覚えてるね」
本当は私だって覚えていた。
大好きな翔と淡路島の中で自然なデートばかりしていた。街の方へ行けばショッピングセンターもあるのだけれど、私たちの暮らす地域から高校生が気軽に何度も行ける場所といえば、海だった。翔とは数え切れないほどこの吹上浜を訪れた。翔に会わないでおこうと考えながら吹上浜に来てしまったのも、心のどこかでは彼に会いたいと思っていたせいだと気づいた。
そして、翔は来てくれた。
本当に彼が現れると思っていたわけではない。微塵も予想していなかった。翔のことを考えるうちに、辿り着いたのがこの場所だっただけだ。それなのに、翔はどうして私の前に——。
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