第二章 潮の香

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 翔と共にお会計を済ませてお店を出た私たちは、「次はどうする?」と顔を見合わせて周囲をキョロキョロと見回した。 「ちょっとお腹いっぱいすぎて、他の店に入る気にはなれないな」 「そうだな。あ、それなら海の方に行かね?」 「海? うん、いいね」  季節は夏真っ盛りだったけれど、高校生の私たちには暑さはあまり関係なかった。  翔と共に近くの砂浜へと歩いていく。ちょうど雲で日が遮られていたこともあり、思ったよりも汗をかかずに済んだ。  たどり着いた砂浜には、私たちと同じような高校生らしい集団や、大学生のカップルらしい人たちがたくさんいた。サーフィンを楽しんでいる人もいる。海の家もあり、砂浜は大賑わいだった。 「ちょっと向こうの方に行こうか」 「うん」  翔は人が少ない方向を指差して歩き出す。頬を撫でる風が程よく心地よい。 「わっ」  砂に足を取られて転びそうになり、思わず声が漏れた。少し前を行く翔が「大丈夫?」と咄嗟に私を見た。 「う、うん。ごめん私、ドジで……」 「いや、歩き慣れないよな。良かったら、どう?」  そう言ってなんと、彼は自分の右手を私の方に差し出してきた。どういう意味なのか、考える必要もない。 「手……いいの?」 「ああ。いやその、朝香が良ければだけど……」  よく見れば翔の頬がほんのり赤く染まっている。照れくさいのか、私から視線を逸らしてちょっと前を見据えていた。私も恥ずかしくなったが、せっかくの厚意だし、甘えないわけにはいかない。 「じゃあ、お言葉に甘えて……」  自分の左手を彼の右手に重ねた。汗ばんだ彼の手は温かく、想像していたよりもずっと大きかった。  男の子の手って、こんなに大きいんだ。  初めての経験すぎて、心臓がバクバクと激しく揺れる。翔の手からも、緊張が伝わってきた。 「翔は、初めてなの?」 「初めてって、何が」 「女の子と手を繋ぐの」 「! あったりまえだろ。こんなこと、他のやつとしたことないって」 「そ、そうなんだ……」  意外だった。明るく誰とでも仲良くできる翔のことだから、きっと小中学生時代に仲良くしていた女の子と、こういうことだって平気でしていたと思ったのだ。  でも違った。手を繋ぐのは私が初めてなんだ。  その事実に、自然と頬が緩んでしまう自分がいた。 「とにかく行こうぜ。あっちの方だったら落ち着いて話せるだろ」 「うん、分かった」
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