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「へえ、姪っ子さんのために」 「ええ、まあ。叔父馬鹿だと笑ってください。姪は本が好きでしてね。図書室をぜひとも見ておきたくて。私が在学していた頃よりさぞ充実しているのでしょうね。……先生はこちらに勤められて長いんですか?」 「いえ全然若輩者で、今年からです」 「そうなんですね。落ち着いてらっしゃるから、てっきり……」 「そんな、毎日パニックですよ。でも、生徒たちは可愛いです」  話しているうちに図書室に到着した。放送室の隣にあり、休み時間以外は施錠されているらしい。女性教員は鍵を開け、樹を中へ導いた。 「どうぞ。それくらいいらっしゃいますか? 御用が終わった頃にまた鍵を閉めに来ますが」 「三十分ほどいただけますでしょうか」 「わかりました」  女性教員は樹を残し、あっさりと出て行った。  さて、と図書室を見回す。入口付近にカウンターがあり、そのすぐ前に新着本コーナーがある。生徒の手作りなのか、画用紙で作られたカラフルなポップがついていた。壁沿いの本棚には児童文学、図鑑、歴史漫画をはじめ著名な画家の作品集やメディア資料まで並べられている。蔵書が豊富なのは在校生・卒業生問わず保護者からの寄付が潤沢だからだ。順に見ていくが、目的のものが見つからない。樹が在校生の頃は片隅に並べられていたはずだが、と足早にもう一度回ろうとしたところで、気がついた。  カウンターの内側にも棚がある。近寄ってみると、たしかにそうだ。卒業アルバムが並んでいる。樹が卒業した以後のものも、当然揃えられている。母校の防犯体制に不安を覚えつつ、卒業翌年のものからめくっていく。そして、樹の卒業から三年後のアルバムにそれを見つけた。卒業生の集合写真に目当ての少年はいなかったが、卒業生たちのコメントのページ。 『琳也くんとも一緒に卒業したかったです。』  そうやって書いているのは、ひとりではなかった。何人もの生徒が、男女問わず書いていた。  この琳也少年が円城家の消えた長男とは限らない。名前が一緒というだけかもしれない。しかし、私立の名門小学校で、途中で転校する子どもは少ない。中学受験のために転校する子どもがいないとは言わないが、樹の母校ではまずいなかったはずだ。  琳也少年について言及している箇所を写真にとっていると、遠くから足音が聞こえてきた。急いでアルバムを棚に戻し、カウンターから出る。 「直門さん」  女性教員が戻ってきたのだった。少し息が上がっているのを、樹は新着コーナーから出迎えた。 「おかえりなさい、大丈夫ですか?」  おおかた、来客をひとりにしてしまったことをほかの教員に注意されたのだろう。出て行ってから三十分どころか二十分も経っていない。 「お忙しいところお邪魔してしまいすみません。もう結構です。これ、素敵なポップですね。私がいた頃はこういったものはなかったように思うのですが。図書委員の生徒さんが作ったのでしょうか?」 「え? ええ……いえ、図書委員と、リクエストした生徒が作ったものです」 「今も入れてほしい本をリクエストできるんですね。姪も喜ぶと思います」  その後は当たり障りのないことを聞いて、パンフレットを貰うと小学校を後にした。校長と合流して話を聞きたかったが、体育館から戻ってきたあとに来客があったらしかった。
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