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 樹は再び実家に戻ってきていた。  本当は小学校を出たらそのまま事務所に帰るつもりだったが、身上書を思い出して戻ってきたのだ。真面目に目を通すのはふたりで断念したが、名前と顔だけは全員確認していた。渡された中のひとりに、卒業アルバムで琳也少年について言及していた少女と同じ名前があったのだ。封筒から取り出し、改めてじっくりと見てみる。  雛倉(ひなくら)沙耶(さや)。都内の名門女子大在学中。観劇が趣味で、海外にまで観に行くこともある。ダークブラウンの髪に、小動物系の顔立ちをしている。  この顔と名字、どこかで、と自分の卒業アルバムを再びめくってみると、いた。雛倉歩美(あゆみ)。沙耶の姉だ。歩美は樹の小学校の同窓生だった。雛倉沙耶は次に接触する人物として最適だろう。 「お祖母さん、いただいたお見合いの話ですが……ひとり、お会いしてみたい女性がいました」  封筒を持って、仏間にいた祖母に声をかけに行く。  仏間もまた、リフォーム前とほとんど変わりない場所だった。祖母が朝昼晩と拝むのも変わりない。 「いいでしょう。日取りは私の方で先方と相談しておきます」  もっと意外そうな顔をされるかと、あるいは喜ばれるかと思っていたのに、祖母は厳格な顔つきのままだった。  何も言われないならこれ幸いと、樹は仏間から退散した。
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