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5-2
数日後、雛倉沙耶とのお見合いの日時が祖母から伝えられた。樹も何度か連れて行かれたことのある高級料亭。その一室で雛倉沙耶と会うことになった。
「はじめまして。直門樹と申します。今日はお時間をいただきありがとうございます」
「はじめまして、雛倉沙耶と申します。こちらこそありがとうございます。お会いできて嬉しいです」
さくら色のワンピースで現れた雛倉沙耶は、意外にもハキハキした声で挨拶をした。
飲み物を注文し、話し始める。
「沙耶さんとは、小学校が一緒なんですよ」
アイスブレイクのていですぐさま本題に切り込む。次があるかわからないのだから、今ここで聞いておかなければならない。
「そうなんですね。懐かしい」
「沙耶さんのお姉さんとは同級生なのですが、卒業以来お会いしていませんね。小学校の同級生と会うことなんて、ありますか? 一緒に卒業した友達だけでなく、転校していった子も今どうしているかな、なんて考えたりするんですよね」
「わかります。私も、転校した同級生でとても人気のある男の子がいて、その子のことは今でもときどき思い出しちゃいます。琳也くんっていうんですけど」
きた、とコーヒーと一緒に生唾を飲み込む。
「へえ、どんな子だったんですか? 子どもの頃の沙耶さんの心を奪ったその男の子は」
「もう、そんなんじゃないですよ」
顔の前で手をパタパタ振りながら笑う雛倉沙耶。小首をかしげて先を促すと、でもそうですね、と続けて話し出した。
「男子からも女子からも人気で、ほら、ああいう年頃ってちょっと男女で溝ができるっていうか、ことあるごとに対立するじゃないですか。ほとんどは可愛いものなんですけど、たまに本当に険悪になっちゃうことってありません?」
「ありますね。懐かしい」
「懐かしいですよね。それをうまく解決するっていうか。琳也くんに話したら、どっちもが納得できる道を見つけてくれるっていうか。リーダーシップをとるわけじゃないんですけど、琳也くんを中心にクラスがまとまっている感じはありましたね」
「それはすごい。小学生の時なんて、私は聞き分けのない悪童でしたよ。でもその子は転校してしまったんですね」
「ええ、しばらくみんなロスでした。その後は、高学年になったからかな、特にクラス内で揉め事が起こることもなかったんですけどね。今、どうしてるんだろう」
「転校するというのも珍しいですよね。何があったんでしょう」
樹がそう切り込むと、それまで楽しそうに喋っていた雛倉沙耶の口数が急に減った。
「ええ、そうですね。珍しいと思います」
しかし、それに気づかないふりをして樹は言葉を重ねる。
「そういえば、何か家族が話していたような……。私も子どもだったので記憶が曖昧なのですが。何かご存知ですか」
「さあ……」
急に歯切れが悪い。ここまでか、と樹はこの話題を切り上げることにした。
「同窓会は無理でも、クラス会なんかで会えるといいですね。私にも先日、高校のですがクラス会のお誘いが来まして……」
話題を変え、その後は流しておよそ一時間でお見合いは終わった。
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