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「お嬢さんは……どちらさまで?」
「申し遅れました。わたくし、円城鈴乃と申します。円城ホールディングス代表取締役社長・円城征一郎の娘ですわ。以後お見知りおきを。直門グループともお取引させていただいているかと。引き続き、どうぞよしなに」
座ったまま背筋を伸ばし、優雅にお辞儀をする鈴乃、樹の目元がピクリと痙攣した。もしやとは思ったが、兄の紹介とは。依頼人に様子見まで頼むなんて、と樹は舌打ちしたくなるのをぐっとこらえた。
しかも、円城ホールディングスときた。円城ホールディングスといえば、日本有数のグループ企業だ。造船からはじまり、建設に関わる企業を多く擁する旧財閥のひとつである。
「それで、ですね。樹さんには人探しを依頼したくまいりましたの。兄を探してほしいのです」
兄の捜索、と聞いて樹は内心首をかしげた。円城の子息が行方不明ということであれば、実家と疎遠になっている樹の耳に入っていてもおかしくはないが、聞いたことがなかった。
「お兄様が行方不明なのですか」
「行方不明、とは少し違うのですが。わたくしには兄がいるはずなのです。ご説明するのが難しいのですが」
慎重に言葉を選びながら、鈴乃が経緯を含めて説明する。
幼少期のアルバムを見ていたら、家族写真に一緒に写っている少し年上の少年がいたこと。裏に家族の名前のほかに「琳也」という名前がメモされていたこと。そういえば、小さい頃に仲良くしていた少年がいた記憶が微かにあること。しかし、一人娘として育てられてきた以上、この少年が何者なのかを家族やまわりの人間に尋ねるわけにはいかないこと。
「そうして悩んでいたとき、こちらの探偵事務所のことをうかがったのです。父は仕事一筋の方ですし、母は少々神経質なところがありますから……わたくしにとって家族とは、家とは心温まるものはありませんでした。しかし、小さいころ仲良くしていたあの子がもし兄であったなら、どんなに嬉しいことだろうかと思ってしまったのです。樹さん、兄を……兄であろう人物を探していただけませんか」
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