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 しかしそれは杞憂だった。誠は樹の知りたかったことを口にした。 「円城のお嬢さんが家を継ぐとは限らない。あの家には、妾の子である長男がいたはずだ」 「……一人娘ではないのですか」  話題が変わってしまわないように、しかし興味津々であることが悟られないように。一呼吸おいてから、微かに驚いたように眉を上げて問いかける。 「対外的にはな。しかし、異母兄と、実弟がいる。いや、いた、だな。弟のほうは、赤ん坊の頃に亡くなっている」 「では、その異母兄が家を継ぐと?」 「どうかな。今どうしているか、とんと聞かない。覚えていないか。その異母兄と、お前は同じ小学校だったんだぞ。途中で転校していったと記憶しているが」  無意識に、テーブルに置いたスマートフォンに手を乗せる。では、アルバムにいたあの少年はやはり鈴乃の兄なのか。 「よくご存知ですね。俺は全く知りませんでした」 「当時、少し話題になったからな。お前は小学生だったんだから、覚えていなくても無理はない」  少し話題になった、その話題元は母だろう、と見当がついた。母は噂話に目がなく、同級生の母親たちと集まってよくお茶会を開いていた。子どもたちが、つまり誠と樹が大きくなってからは、日本舞踊の教室のクラスメイトたちとお茶するのにはまっているようだ。 「なんという子だったのですか」 「名前か? さあな、そこまでは知らないな。ま、優秀だと評判だったそうだ」  鈴乃の兄の話題は、そこで打ち切りとなった。
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