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電車が出発するまであと5分。
動くにはまだまだ早い。俺は何気ない振りをして目をつむり、腕を組んで、時間が過ぎるのを待った。
「まもなく電車が出発しまーす。かけこみ電車はご遠慮下さーい。」
しばらくして発車の合図音とともに、場内アナウンスが聞こえてきた。
今だ!
俺はカッと目を見開き、席を立つと、立っている乗客の間をダッシュですり抜け、ホームへ飛び出した。
その直後、プシューという音と共に電車の扉が車両を封鎖し、電車はゆっくりと出発して行った。
俺の隣に座っていた若い男が窓越しに、怪訝な顔つきで俺を見ているが、そいつに俺の取った行動の意味などわかるまい。
尾行者と思しき若い女の様子を伺ってみたが、こちらに注意を払っている様子は皆無で、夢中でスマホをいじっている姿が去り行く電車の中でチラリとだけ見えた。
まあ良い。尾行者であるとの確証は得られなかったが、とにかくこれで安心して家に帰れるというものだ。
これがいつもの、俺の電車での尾行の巻き方である。
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