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久々に会った彼女は、まるで別人のように痩せていた。そして俺を見るなり抱きつくと、胸の中でわんわんと声を上げて泣く。別れ際にも気丈に笑ってみせた彼女が。
彼女をこんな風にしてしまったのは自分だ。放っておけるわけがなかった。
そろそろケジメをつけなくては──。
***
週末、妻の実家に行った。
また門前払いされそうになったが、俺が1枚の紙を見せたら妻は一瞬狼狽えた顔を見せ、それから「入って」と俺を招き入れた。
居間に通され、テーブルを挟んだ向かいに妻が座る。
お茶を運んできたお義母さんもそのまま座ろうとしたが、妻に「2人きりにして」と追い払われた。母子2人がかりで責められることを覚悟していた俺はほっと胸を撫で下ろした。
改めて離婚届を差し出し、「離婚しよう」とストレートに伝える。妻は静かな目で俺を数秒見つめてから、ゆっくり口を開いた。
「そんなに彼女が好き?」
「……うん。本当にごめん」
彼女は関係ない、俺達夫婦はとっくに崩壊してるじゃないか。本当はそう返してもよかった。けれどそれでは家を出ていった妻だけを責めることになり、フェアではない。
しばしの重たい沈黙。妻はテーブル上の離婚届を食い入るように見つめている。俺は余計な口は利かず、妻の言葉を待った。
「わかりました」
やがて顔を上げてそう答えた妻の目には、薄らと涙が溜まっていた。妻のそんな表情は初めて見たかもしれない。
いつもみたいに癇癪を起こしてくれた方が全然よかったのに。後味が悪い。
けれどこの決断は間違いではないはずだ。駅に着き、1番線ホームに向かいながら自分に言い聞かせる。
"エンジェルナンバー『1』は始まりの数字。新たなスタートを示すポジティブなパワーに満ちています。"
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