『2』

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 落ち込んでいるからというわけではないが、今日は彼女の家に顔を出すことにした。引越し費用と、一応何かあった時用に俺の社用携帯の番号を渡すためだ。俺さえ大人しくしておけば妻が彼女に何かすることは考えにくいが、家を知られた以上は転居した方がいい。 「じゃあ、家決まったらここに連絡すればいいのね?」 「うん、心配だから一応。……迷惑かけて本当にごめん」 「謝らないで。元々覚悟の上だったし、むしろタダで引っ越せてラッキーよ」  悪戯っぽく笑う彼女。触れたら離れられなくなるから、抱きしめたい気持ちを必死で抑え込む。この子の笑顔なしで、この先を頑張れるわけがないのに。  いつかまた一緒に過ごしたい。でもそんな無責任を口にして彼女を縛り付けるわけにもいかない。 「じゃあな、元気で」 「うん。いつか迎えに来てね」  遅くなって妻に怪しまれたら困るから、玄関口で別れを済ませ、彼女の家を後にした。  帰り道ぼんやりと歩道橋を渡っていたら、足が残り2段を踏み外してしまい軽く転倒。左足を捻ったらしく痛くてたまらない。  マンション付近まで辿り着くと、ゴミ捨て場にいた2羽のカラスが、足を引きずる俺を嘲笑うようにカーカー鳴いた。 「ただいまー」  妻は出迎えてもくれない。代わりに息子がバタバタ走ってきて嬉しかったが、「おかえりパパ!」と抱きついて来たのが左足だったから痛みで泣きそうになった。とことんツイてない。
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