『2』

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***  年を越し、気づけばもう2月。  マンションの隣室に、二階堂という苗字の一家が越してきた。子供が2人いるが、兄弟で音楽活動でもやっているのか、下手くそな歌とギターが夜中まで響き、休まらない日々が続く。  相変わらず2時台によく目を覚ます俺のエンジェルナンバーはまだ『2』らしい。  仕事はまだ好調とは言えないけれど、少しだけ上向いた気がする。今月の営業成績を3位から2位へとひとつ戻した。  がむしゃらに働く日々。もとより定時退社などできないのが企画営業部だが、最近は帰宅すると22時を超えている。  そういえば最近、沈黙していた妻がまた小言を漏らすようになった。どうやら帰りが遅いことが気に食わないらしい。  一度浮気をしたら一生疑われるのは仕方ないのかもしれないが、毎日疲労困憊で帰宅してグチグチ言われるのはさすがに辛い。 ***  今夜は随分遅くまで残業してしまった。明日大事なコンペを控えており、プレゼン資料のチェックを隅々までしていたからだ。  終電で帰宅すると、早速妻が食ってかかってきた。しかし俺も疲労のピーク。ついに受け流すことができなかった。 「うるせえなあ。仕事だっつってんだろ!」  強い口調で怒鳴りつけたら、妻が久しぶりにヒステリーを起こした。これは回復なのか破綻なのか。  手当り次第ものを投げつけてくるから、身体中痛いしリビングはめちゃくちゃ。  最悪だ、やってられない。 ***  翌朝。コンペを無事に終え、チームのヤツらとの打ち上げもそこそこに、急ぎ家路に着く。  帰宅したら、家の中がやけにしんとしていた。妻も息子もいないのだろうか。  リビングのテーブルの上に『1』枚の紙切れが置いてある。  "しばらく実家に帰らせていただきます"  2月22日。奇しくも今日は、俺達夫婦の結婚記念日だ。  なんだか無性に腹が立ち、そのメモを妻の文字ごとビリビリに破って捨てた。
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