『3』

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『3』

 気のせいなのかもしれないが、一度気に止めてしまったらもう気になって仕方がない。  たとえば、夜中にふと目を覚まして、薄闇の中に光る時計のデジタル表示に何気なく視線を投げた時。  朝家を出て、エレベーターを呼ぶ瞬間に停まっている階数。  それから、道すがら何気なく目に入った車のナンバーとか。出社してパソコンを開いた時のメールの件数とか。 「ただの気のせいかもしれないんだけどさ。なんか最近、俺の周りに数字の『3』が溢れ過ぎてんだよ」  本当は誰かに話すつもりなんてなかったのだ。だってあまりに主観的だし、それによって他に何が起きたわけでもないから。  けれど、今日も今日とて3が止まらない。  彼女とのデート、指定された待ち合わせ時間は午後3時。映画を観に行けば、お目当ての作品はスクリーン3で上映。そして今しがた居酒屋に入り、見事3番テーブルに案内されたところだ。  だから思わずこぼしたのだが、さすがに言葉足らずだったらしい。彼女に「え? どういうこと?」と首をかしげられてしまったので、いくつかの例で補足すると。 「あー、それ。エンジェルナンバーじゃない?」  彼女が口にしたのは、聞き慣れない単語。今度は俺が首をかしげる番だ。 「エンジェルナンバー? なにそれ」  折しも店員が注文のビールを運んできて、話は一時中断。まずはグラスを合わせた。土曜の休日でもついお疲れ様と乾杯してしまうところが社畜である。
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