カセットテープは……結果的に絡んだ意図も簡単に吐き出す

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 明日のお昼の放送で、私は初めて部長のアシスタントをする事になった。 「志保!ゲイン調整するから、そのマイクに声出して!」 「私が!……ですか?」 「だって、それ、キミのマイク」  入学式の時、“ひと目”“ひと聴き”で好きになったのが放送部の部長で……私は即、放送部へ入部した。  その“憬れの人”とたった二人の放送室!  部長はドアを出て調整室のミキサー前からキューを出す。  私は声を張ろうとしたのだけど胸がドキドキして……声が震える。  結果、ダメ出しされてしまった……  私の苗字は部活でもありふれた『佐藤』だから……部長は、私を『志保』と呼んでくれる。  それだけの事と分かっていても“二人きり”のこんな状況では震えてしまう。  こうして何度かのダメ出しの後……  ブースを出た私に部長は声を掛けてくれた。 「来年のNコンはキミたちがメインなんだから頑張らないとね」  かあ…… もう少し元気の出る言葉が欲しいなあ……  そんな私を置きっぱなしにして、部長は古めかしい“カセットデッキ”なる物の前に座り、ストップウォッチを片手に、キューシートへ『A:12" B:1'47 C:1'57” B2:3'04" Total:3'37"CO』などと書き込んでいる。  ふいにスピーカー出しの音楽がヨれて、ガガガガ!と詰まる音がした。 「あっ!!」  部長が慌てて引っ張り出したカセットテープは、こげ茶色のテープを吐き出し、それを機械の中へ巻き込ませていた。  絡んだカセットテープを机に置いた部長は、吐き出されたテープの端っこを摘まみ、それらを優しく優しく手繰り出していく。 「これ、センパイのお気に入りだったんだよな」  センパイって!!?  ひょっとして!  オンナ?!  無意味に空回りの嫉妬が私の胸に渦巻く。  キューシートの上には、救い出されたテープが所々蛇腹になりながら、とぐろを巻いている。 「志保も見ておきな!」  部長は吐き出されたテープを、カセットのリールに鉛筆を差し込んでカラリカラリと巻き取り始める。 「今日は静電気がすごいな」  可愛い後輩をほったらかしにして……こんな古い物に掛かり切りなんて!!  誰かの想い出と対話しているだけじゃん!  せっかくの二人きりなのに……  泣きたくなる。  今、あなたがキューを出してくれたら  私  きっと  何でもしてしまう……  でもそんな心の中とは裏腹に、私は部長の手元を興味深げに覗き込むフリをする。  パチン!   部長のカーディガンが髪に触れて、静電気が私の頭を軽く叩いた。 「大丈夫?」  ふわっと触れたカレの手に  私は激しく感電して  テープのとぐろの横に  髪をぶちまけてしまう  そんな私の頬を包んでゆっくりと頭を起してくれた部長を見つめ、  カレの両手に自分の両手を添えて……  私は目を閉じた。  それから随分と時計の針が動いて……  私達と同じ様に……  カセットデッキに噛まれて、糸になったテープは……  私がカットして繋ぎ直した。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加