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今日も今日とて、ディマスは元気に絡んでくる。 これだけ顔を合わせていると、そのうち打ち解けて親友になれそうな気さえする。 向こうはそんな気サラッサラないだろうけど。 しかし、なんというか……ゲーム中のリアムの嫌がらせにしてもそうだけど、地味なんだよな。やることが。 ・少し離れた場所から睨む ・嫌味を言いに来る ・たまにぶつかってくる ・悪いうわさを流す せいぜいこんなもんだ。 同じクラス内であればこれに付け加えて、持ち物を隠す・壊す、が出来るのだろうがディマスは違うクラスなこともあって、そうそうこちらに入ってくることが出来ないのか──そりゃ目立つしな──無理なようだ。 結果、揚げた4つが主なものになっているのだが……。 ・少し離れた場所から睨む →ディマス様はリアム様が気になっておられるのでは?(別の意味でなら当たってる) ・嫌味を言いに来る →ディマス様はお話をしたいけど不器用でいらっしゃるのでは?(ある意味不器用というか……人の話を聞かないな) ・たまにぶつかってくる →お近づきなろうと失敗なさった?(さして痛くもないが、この前ぶつかられた際に購買で購入した限定クリームパンを落とした恨みは忘れない) ・悪いうわさを流す →リアム様を誤解なさって……まさかリアム様に近づく誰かを牽制して⁈(おい、まて。信じないのはありがたいがどういう考えになってんだ) と、おかしな方向に俺とディマスの関係が誤解された挙句、 【ディマス様はリアム様を娶りたいのでは⁈】 現状こうである。……しかしこの事実をディマスは知らないので、ずっと俺の元に来るわけですよ……誰か止めろよ。ディマスって王族じゃん、お付きとかいないのかよ! 「お前、私が話しているのに上の空とはどういうことだ」 そう、そして今もディマスは俺の前にいて、キャンキャン吠えているわけで……周囲は好奇心を持って見守っているんだよなぁ。止めてくれよ。 「いえ、そういうわけではないんですけど……あのですね、ディマス様、何度もご説明しているのですが、僕はレジナルド先輩とは……」 「私がどうしたのかな?」 説明→いっとき無視→説明、とよくわからんルーティンを繰り返し、何十回目かのレジナルドに対する俺の考えを述べようとしたときに、俺の後ろから張本人が現れた。ちょうど俺とディマスは廊下の曲がり角に近い場所にいたこともあって、目の前にいたディマスもその登場は予見できなかったらしい。 レジナルドは俺の横に立って、やあ、と軽く挨拶をした。 「レジナルド!」 「……どうも……」 俺とディマスの対応は天と地の差がありそうだ。 隣に立つその人から俺は一歩横に離れる。 「ちょうど君たちが見えてね。ディマス、学園はどうだい?」 声をかけられたディマスは、俺の方をちらりと見る。その目があからさまにマウントを取るように細められていた。 ……あの、俺としてはあなた方にご成婚いただいたほうが都合がいいんですよね……。 俺は静かにもう一歩離れる。 「とても楽しく過ごさせてもらってるよ。ちょっと小賢しい蠅が煩いけれどね」 「蠅?」 ディマスの言葉にレジナルドが首を傾げた。 あーはいはい、俺のことですよね。知ってます。でも俺から絡んだことないんですけどね!お前ら二人で話してくれよ。俺は向こうでセオドアとノエルが待ってるからさぁ! 言い返す気にもなれなくて、もう一歩、俺は横に離れる。 すると、レジナルドの手がすっと伸びて俺の腕を掴み、自分の方に引き寄せた。 「ひぇっ」 急な引力に俺の弱い体幹はついていけず、よろめき──……。 「おっと……大胆だね、リアム」 たどり着いた先はレジナルドの胸元だ。俺を引いた手がしっかりと背中に回っており、密着率が半端ない……て……。 ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!! 何を!!して!!くれるのだ‼このスカポンタン‼ 俺が慌てて身を捩らすと、背中に回った手の力が更に強くなる。 「はな……っ」 その場から見上げたレジナルドは随分と楽し気に笑っているではないか。 腹立つーーーー‼つか、マジでやめてほしい……‼後ろから殺気を感じる……。 俺が振り返ると、案の定ディマスは憤怒の表情である。ウワーオ……俺、これ殺されたりしないだろうな……? 「失礼する……‼」 「あ、ちょ……⁈ま、ディマ……ひぃあう‼」 ふるふると震えて手を握りしめて、ディマスは凄い勢いで回れ右してずんずんと遠ざかっていくではないか。俺がそれを引き留めようとした瞬間、背中にあったレジナルドの手が動いて俺のわき腹をぎゅっと掴んだ。こそばゆさを伴うなんとも言えない感触に声を奪われ、ディマスは既に遥か向こう側だ。 く、と俺の上でレジナルドの笑い声が漏れた。俺はレジナルドを見上げ睨む。 こいつ、本当にさぁ……‼ 「離して、くださいっ‼」 そもそもここは廊下で公衆の面前だ。こうして密着しているのはおかしい事態で、俺は周囲の目が気になって仕方がない。ディマスだって気になる。こちらではそう権威がないといっても、相手は王族だ。あちらの勘違いで仲が良好でもないのに、こんなもん見せたらレジナルドに興味がないと言い続けた俺の立場がないではないか。 レジナルドの胸を思いっきり俺は押した。が!ビクともしない。レジナルドは俺の抵抗に、再び笑い声を漏らす。 「少し鍛えた方がいいかもしれないね、リアム。まるで子猫が暴れているようだ」 そう言って、一度俺を抱きしめると、俺の額にキスをして漸くその手を離してくれた。 わぁ、王子様のように流れがスマート……って、おいいいいいいいいいい‼ 何してくれとんじゃああああああああああああああああああああああああ‼ 俺が心の中で叫んだと同時に、周囲が、ワッと沸いた。 あああああああああ……これちょっと見にはラブシーンでしょ⁈馬鹿なの⁈馬鹿なんだな⁈そうだ!!お前は馬鹿だなレジナルド----‼ 俺が再度睨むと、今度はレジナルドが肩を竦める。そこで、鐘がなった。次の授業が始まる5分前の鐘だ。 「残念。また放課後に会おう、リアム」 悪びれた様子もなく、レジナルドは微笑んでから去っていく。 周囲は相変わらずざわついていて、その中には「レジナルド様はリアム様を……お二人はもしかして?」などとも聞こえた。まってまってまって‼違う‼違う‼ 誰が言ったのかわからないが、とにかく否定したくてあたりを見回すと、今度は廊下の先から先生が歩いてくるのが見えた。 おわああああああああ‼まずいいいいいい‼ 慌てて俺は自分の教室に急いだ。 ちなみに、次に流れた噂は 【リアム様をめぐってレジナルド様とディマス様が対立⁈】 である。 さらに言えば、この噂について俺は兄から結構な詰問を受けた………………勘弁してくれ。
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