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俺が願祈大学に入学する前、星は俺の夢出てきた。
そこは白がひたすらに広がる空間で、透明度の高いブルーのワンピースを着て、黒く艶やかなロングヘアーをたなびかせた女性が佇んでいた。体も半透明で、鼻が高く、なにより吸い込まれそうな黒い瞳をしていた。静謐。そんな一言が真っ先によぎるような女性だった。その女性は一息に俺に予言めいたことを、まるで神託を受けた巫女のように言い放った。
「あなたは、二者択一の選択を迫られることになる。対と対は交わることがない。あなたは磁力にならなくてはならない。決して一人では成し得ず。あなたは私を必要とし、私を滅ぼす。」
俺は訳が分からず、声を出そうとしたときに気づいた。この空間で俺は声を出せない。正確には出した音が白に吸い込まれてしまうイメージだ。
ホワイトホール。
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俺の夢はそこで終わった。当時高校3年生だった俺は、このお告げのような薄気味悪い夢に、何故か抗えない好奇心を抱いた。受験がこれから始まるという時期だったが、俺は進学先を特に考えていなかった。曲がりなりにも勉強はコツコツとやっていたことと、両親から頂いた遺伝子の恩恵もあり、学力的にはどこの大学にも行ける可能性があった。なんとなく、社会に出るまでのモラトリアムを享受できればそれでいいという漠然とした思いのまま、適当に大学を選ぶつもりだった。しかし、この妙な夢を機に、俺は願祈大学に関心を抱くようになった。
願祈大学は、いわゆる一般的な大学とはかなり趣が異なっていた。そもそも、一般的な四年制の大学とは異なり、必修科目を受講しさえすれば、自分の好きなタイミングでの卒業が認められていた。必修科目の量も多くなく、真面目にこなせば二年ほどで取り終わってしまう程度だ。授業内容もかなり特殊で、卜占、いわゆる占いに関することを広く学ぶ大学で、学部は卜占学部一つだけだった。その代わりに、専攻は「星学」「タロット学」「易占学」「宗教学」などなど、占いに関するものを幅広く選べる仕組みになっている。お察しの通り、世間からは「お遊び大学」「バカが通う大学」といった認識だ。実際ここに進学するのは、勉強はできず、特にやりたいこともないが就職はしたくないという人か、占いで食っていこうとしているもの好き、あるいはオカルト好きのバカか変人というラインナップになっている。進路調査希望で、俺がこの願祈大学を第一志望と言うと、担任は数秒呆気にとられたアホ面を晒したのち、慌てて再考を促してきた。学校の進学実績の見栄えを良くしたいという高校側の思惑を裏切りたい気持ちもあって、俺は願祈大学への受験を決めた。無関心な両親は、俺が願祈大学に行くと言うと、少し怪訝な表情を見せたのち
「まあ、あなたの人生なんだし好きにしたら」
と言い放たれた。つまらないスタンプラリーを回っているかのような気分だった。
そうして俺は、特に占い周りの勉強もすることなく受験当日を迎えた。鉛筆を転がして回答しても受かるような体裁だけの筆記試験を終えたのち、入学前フォロー面接というものがあった。そこでも相も変わらずに退屈な一対一の質疑応答のような時間が繰り広げられた。
「どうして願祈大学に進学を決めたのですか?」
「占いに興味があったので」
「どんな占いに興味があるのでしょうか」
「あー、えっと、手相とか?あぁ、水晶とかも、興味あります」
「今まで占い師に占ってもらったことはある?手相占いとか」
「あーと、修学旅行で友達と一緒に見てもらった、と思います」
「うちに入学するにあたって、不安なこととかある?」
「いやー、特にはないですね」
ここまでは、ペッパー君のほうがまだ愛想があるのではないかと感じるラリーだったのだが、ここで役者が交代した。
「じゃあ、ここからは星さんといううちの生徒、あーと、君から見たら先輩だね、うん、にあたる人からいくつか指導案内みたいなのがあるから少し待っててね」
なんだってテンポの悪い面接だなと思いながら、案内された席で待つ。どこかの魔法学校をチープにしたような装飾の部屋で待っていると、その先輩とかいうのが現れた。一目見たとき、俺は思わず間抜けな声を出してしまった。
「へ?あ、え?」
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