それでもなお

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安産......だったほうだと思うけど、それでも苦しい苦しい出産を 乗り越えて、女の子が健康体で生まれた。 名前は『尚(なお)』と、名付けた。 『不穏な占いが出たけれど、なおのこと育てたい』という意味合いで。 圭太は「こだわりすぎ」って、言ってきたけど、漢字の意味合いが良くて 同意してくれた。 そんな心配を跳ね飛ばすみたいに、尚は手のかからない赤ちゃんだった。 夜泣きせず、たくさん眠ってくれたし、食べ物の好き嫌いも無かった。 幼稚園児になってからも、なんでも『はい』と、返事をする子なので ママ友さんに「うちの子は言ってもきかないのよ」と、愚痴られた。 そして圭太が昇進して、マイホームを手に入れて引っ越した。 あたしは神経質だから枯らすのが怖くて、植物を育てられない。 だから庭に木を一本だけ植えた。 たどたどしく庭を駆け巡る尚が、やがて圭太とボール遊びをするように なったり、一人で縄飛びをして、二十飛びが得意になったり、勉強に夢中で 自室にこもるようにもなった。 気づけば尚は聡明で真面目というか、真面目過ぎる10代になっていた。 そして正義感が強く、たとえばタバコのポイ捨てをした見知らぬ男性に 「そういうことしちゃダメなのよ!」と、怒鳴ったくらいだ。 男性が襲い掛かってくるかと恐怖したが、にらむだけで去ってくれた。 「尚、正しいことをやっていくのは大事。 だけど、振りかざすと諸刃の剣のときもあるのよ」 「お母さんは気にしすぎっていうか、弱いだけでしょ」 その通りだけど、なんだか心配になる性質でもある。 「でも、お父さんのほうが嫌になるかなあ、大らかっていうより雑だよ。 真剣な悩みを相談しても、なんとかなるさって笑うばかりで」 「悩み?」 「うん、将来は美容師になりたいけど、東京の学校に進学して、 独り暮らしするのは不安なのよ、私って家事できないじゃん?」 「そんな、尚が独り暮らしなんて、心配過ぎて泣いちゃう」 「どっちもどっちだなあ......」 さすがに親として情けなかった。
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