花の場合①

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「あっちゃん、送ってくれるの?」 「……」 「や、約束事とか、大丈夫?」 「うるさい。下向いとけブス」 家には送ってくれるけど、喋ることは許してくれないらしい。あっちゃんにブスと言われ、少し凹んだ私は、言われた通りに顔を下に向けた。 帰りの廊下で、「空輝あき〜、今日は彼女ちゃんと帰んの?カラオケどうすんの?」と、あっちゃんの名前を呼ぶ声が聞こえた。 空が輝くと書いて、アキ。あっちゃん。 そんなあっちゃんは彼女の私には優しくない。 「そー、こいつ眼鏡壊れたっぽい。今日パスで」 「まじか、了解」 「ミホ達にもごめんって言っといて」 私の彼氏のあっちゃんは、女の子の友達ともよく遊ぶ。その子達にはすごく優しい。いっぱいいっぱい笑ってる。 私には笑わないあっちゃんは、私以外だと笑う。 きっとあっちゃんは、私と別れたいんだろうなぁ……。 下足場は、男女で別れていて、あっちゃんは私に「靴履き替えてろ、すぐ来るから」と腕を離すと、どこかへ行ってしまった。あっちゃんというシルエットが消えて、少しだけ寂しくなった。 寂しくなったけど、これ以上あっちゃんに迷惑をかけるのはダメだから、感覚と記憶を辿りに自分の下駄箱に行き、靴を履き替えた。 あっちゃんに言われた通りにそのままあっちゃんを待っていると、「──何年生?」と、近くで声が聞こえた。 男の人の声だけど、聞いたことがなかった。 見上げても顔が見えなくて、あっちゃんと同じぐらいの背の男性の──シルエットだなぁぐらいしか分からなくて。 顔を傾けた。 「あ、俺ね。2年生。君は? 2年のところで何してるの?」 多分、私に話しかけているのは同い年の人らしい。 「……あの、私に話しかけてます?」 「え? 君しかいなくない? 名前は? 教えて」 ますますわけが分からなくなった。ここは女子生徒側の下足場だし、男性がいるのは不自然で。 それよりも同学年で名前を聞かれるなんて、普通はあるの? 私も顔が見えないから、誰か分からないから人のことは言えないけど。 もしかしたら私が目の見えないところで、失礼な事をしちゃったのだろうか? 「……あ、あの、2年生の、海野うみの花はなです……」 「花?え、まって、同い年?」 「え、っと、……すみません、私なにか、してしまったでしょうか?」 「まあいいや。花は彼氏いる?」 「え……?」 「いるの?男」 どうしよう。 この人の言っていることが理解できない。 何かしたかと聞いているのに、どうして彼氏がいる?なんて。会話が成り立たない。 私の目が見えないせいだろうか。 それとも私がトロいから、会話の流れを掴めないだけ? だとしたら私が悪いのかな…… 「俺の事、知ってる? 広大こうだいって聞いたことある?」 何が知らないって……? こうだい? こうだいって……。 どう返事をしようか悩んでいた時、「──…花」と、あっちゃんの声が聞こえた。 その声に安心して、あっちゃんの方へ顔を向ける。あっちゃんの顔は見えないけど、あっちゃんが近づいてくるのがシルエットで分かった。
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