40人が本棚に入れています
本棚に追加
「あっちゃん、送ってくれるの?」
「……」
「や、約束事とか、大丈夫?」
「うるさい。下向いとけブス」
家には送ってくれるけど、喋ることは許してくれないらしい。あっちゃんにブスと言われ、少し凹んだ私は、言われた通りに顔を下に向けた。
帰りの廊下で、「空輝あき〜、今日は彼女ちゃんと帰んの?カラオケどうすんの?」と、あっちゃんの名前を呼ぶ声が聞こえた。
空が輝くと書いて、アキ。あっちゃん。
そんなあっちゃんは彼女の私には優しくない。
「そー、こいつ眼鏡壊れたっぽい。今日パスで」
「まじか、了解」
「ミホ達にもごめんって言っといて」
私の彼氏のあっちゃんは、女の子の友達ともよく遊ぶ。その子達にはすごく優しい。いっぱいいっぱい笑ってる。
私には笑わないあっちゃんは、私以外だと笑う。
きっとあっちゃんは、私と別れたいんだろうなぁ……。
下足場は、男女で別れていて、あっちゃんは私に「靴履き替えてろ、すぐ来るから」と腕を離すと、どこかへ行ってしまった。あっちゃんというシルエットが消えて、少しだけ寂しくなった。
寂しくなったけど、これ以上あっちゃんに迷惑をかけるのはダメだから、感覚と記憶を辿りに自分の下駄箱に行き、靴を履き替えた。
あっちゃんに言われた通りにそのままあっちゃんを待っていると、「──何年生?」と、近くで声が聞こえた。
男の人の声だけど、聞いたことがなかった。
見上げても顔が見えなくて、あっちゃんと同じぐらいの背の男性の──シルエットだなぁぐらいしか分からなくて。
顔を傾けた。
「あ、俺ね。2年生。君は? 2年のところで何してるの?」
多分、私に話しかけているのは同い年の人らしい。
「……あの、私に話しかけてます?」
「え? 君しかいなくない? 名前は? 教えて」
ますますわけが分からなくなった。ここは女子生徒側の下足場だし、男性がいるのは不自然で。
それよりも同学年で名前を聞かれるなんて、普通はあるの?
私も顔が見えないから、誰か分からないから人のことは言えないけど。
もしかしたら私が目の見えないところで、失礼な事をしちゃったのだろうか?
「……あ、あの、2年生の、海野うみの花はなです……」
「花?え、まって、同い年?」
「え、っと、……すみません、私なにか、してしまったでしょうか?」
「まあいいや。花は彼氏いる?」
「え……?」
「いるの?男」
どうしよう。
この人の言っていることが理解できない。
何かしたかと聞いているのに、どうして彼氏がいる?なんて。会話が成り立たない。
私の目が見えないせいだろうか。
それとも私がトロいから、会話の流れを掴めないだけ?
だとしたら私が悪いのかな……
「俺の事、知ってる? 広大こうだいって聞いたことある?」
何が知らないって……?
こうだい?
こうだいって……。
どう返事をしようか悩んでいた時、「──…花」と、あっちゃんの声が聞こえた。
その声に安心して、あっちゃんの方へ顔を向ける。あっちゃんの顔は見えないけど、あっちゃんが近づいてくるのがシルエットで分かった。
最初のコメントを投稿しよう!