花の場合①

3/4
前へ
/72ページ
次へ
だけど、あっちゃんの歩く足の強さで、さっきよりも不機嫌なのが伝わってきた。 「広大、何してんの」 「あれ、空輝じゃん。お前ツバサとかとカラオケ行くって言ってなかった?」 どうやら、目の前の広大という人は、あっちゃんの知り合いらしかった。もしかしたら友達かもしれない。あっちゃんの友達……、そう思うとさっきの戸惑いが消えたような気がした。 「ちょっと用事で。何してんのかって聞いてんだけど」 「あー、めっちゃタイプの子見つけて。空輝知ってたこの子。めっちゃ可愛くない?同い年らしい。見たことある?」 「……」 あっちゃんが静かになったから、あっちゃんが怒ったのだと思った。あっちゃんは怒ったら、黙る癖があるから。だからあっちゃんの方を見ず、 私は顔を下に向けた。 またあっちゃんを怒らせることを、私がしてしまったのかもしれない。 「……それ、一応俺のなんだわ」 「え、空輝の?」 「広大、お前見る目ねぇな」 「え、でも……空輝の女ってブスで……根暗で、めっちゃ分厚い眼鏡かけてて……。ずっと下向いてる陰キャだったよな?」 「そうだよ」 「同一人物?」 「……」 「いや、これあり? 普通に可愛い。知らんかったわ。そういえばお前、ずっと彼女の事ブスッて言ってたもんなぁ。名前も今知ったわ」 「……」 「花も一緒にカラオケ行く?」 また1歩、と。歩いてきたあっちゃんの足音がさっきよりも怖かった。 強く、腕を掴まれる。 「……ほか誘え」 「なんで、いいだろ。ちょっと貸してよ」 「……こんな根暗……」 「お前なんかめっちゃめちゃ遊んでんじゃん。ずっと浮気ばっかして。可哀想な花」 「……」 「なんで花の事嫌いなのに、付き合ってんの?」 「今日は無理。明日なら好きにしていい」 ぶっきらぼうに言ったあっちゃんは、私の腕を強く引くとそのまま歩き出した。 不機嫌なあっちゃんは、私が転びそうになってもお構い無しに早く歩く。 「……面倒増やしがって、ふざけんなよ」 学校から出て、少し歩いたところで、あっちゃんは不機嫌に言った。 まだ、さっきの事が何か分かっていない私は、「ごめんなさい……」と謝ることしかできなかった。 家まで送ってくれたあっちゃんは、目の見えない私のために鍵を使って玄関の鍵を開けてくれた。 「あっちゃん、ありがとう…。家の中は大丈夫だから……。ごめんね」 あっちゃんはすぐに帰るだろうと思った。できるだけ私と一緒にいたくないはずだから。 「親は?」 そう思ったけど、あっちゃんのその言葉に、ああ、まだ帰らないのかなって、少し嬉しかった。 だけど、悲しくもあった。だって今からするのは、愛のない行為だから。 「……仕事……、7時頃帰ってくると思う」
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加