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だけど、あっちゃんの歩く足の強さで、さっきよりも不機嫌なのが伝わってきた。
「広大、何してんの」
「あれ、空輝じゃん。お前ツバサとかとカラオケ行くって言ってなかった?」
どうやら、目の前の広大という人は、あっちゃんの知り合いらしかった。もしかしたら友達かもしれない。あっちゃんの友達……、そう思うとさっきの戸惑いが消えたような気がした。
「ちょっと用事で。何してんのかって聞いてんだけど」
「あー、めっちゃタイプの子見つけて。空輝知ってたこの子。めっちゃ可愛くない?同い年らしい。見たことある?」
「……」
あっちゃんが静かになったから、あっちゃんが怒ったのだと思った。あっちゃんは怒ったら、黙る癖があるから。だからあっちゃんの方を見ず、
私は顔を下に向けた。
またあっちゃんを怒らせることを、私がしてしまったのかもしれない。
「……それ、一応俺のなんだわ」
「え、空輝の?」
「広大、お前見る目ねぇな」
「え、でも……空輝の女ってブスで……根暗で、めっちゃ分厚い眼鏡かけてて……。ずっと下向いてる陰キャだったよな?」
「そうだよ」
「同一人物?」
「……」
「いや、これあり? 普通に可愛い。知らんかったわ。そういえばお前、ずっと彼女の事ブスッて言ってたもんなぁ。名前も今知ったわ」
「……」
「花も一緒にカラオケ行く?」
また1歩、と。歩いてきたあっちゃんの足音がさっきよりも怖かった。
強く、腕を掴まれる。
「……ほか誘え」
「なんで、いいだろ。ちょっと貸してよ」
「……こんな根暗……」
「お前なんかめっちゃめちゃ遊んでんじゃん。ずっと浮気ばっかして。可哀想な花」
「……」
「なんで花の事嫌いなのに、付き合ってんの?」
「今日は無理。明日なら好きにしていい」
ぶっきらぼうに言ったあっちゃんは、私の腕を強く引くとそのまま歩き出した。
不機嫌なあっちゃんは、私が転びそうになってもお構い無しに早く歩く。
「……面倒増やしがって、ふざけんなよ」
学校から出て、少し歩いたところで、あっちゃんは不機嫌に言った。
まだ、さっきの事が何か分かっていない私は、「ごめんなさい……」と謝ることしかできなかった。
家まで送ってくれたあっちゃんは、目の見えない私のために鍵を使って玄関の鍵を開けてくれた。
「あっちゃん、ありがとう…。家の中は大丈夫だから……。ごめんね」
あっちゃんはすぐに帰るだろうと思った。できるだけ私と一緒にいたくないはずだから。
「親は?」
そう思ったけど、あっちゃんのその言葉に、ああ、まだ帰らないのかなって、少し嬉しかった。
だけど、悲しくもあった。だって今からするのは、愛のない行為だから。
「……仕事……、7時頃帰ってくると思う」
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