花の場合①

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花の場合①

私は少し、鈍臭い。 鈍臭いというよりも、よくトロいって言われてしまう。今日も花粉症の目薬をするために眼鏡を外して机の上に置こうとした時、誤って眼鏡を床に落としてしまった。 おかげで両側のレンズにヒビが入って、もう一度耳にかけても少し歪んで見えにくくて。所持品に替えの眼鏡もなく、これからは使えなくなった時の為に眼鏡の替えも必要だなぁと心の中でため息をついた。 正直なところ、私は眼鏡がないと生活ができない。よく「これ何本?」と50cmぐらいの距離で指の本数を当てるゲームがあるけど、私にはそれが分からない。だからそれほど目が悪い。 授業中はもちろん黒板の字は見えなかった。トイレに行く時はある程度の慣れと雰囲気で行くことが出来た。お弁当も、いつも鞄の定位置に入っているから食べることができた。 放課後になって、ああこれからどうやって帰ろうかと思った。学校の中のように慣れと雰囲気で帰れるだろうか?と。 信号、渡れるかな? ちゃんと車が見えるかな? お母さんに迎えに来てもらった方がいいかな? そう思ってスマホを開くけど、スマホの文字がぼやけてよく見えなくてそれは不可能だった。 頼れる友達もいなく、廊下に出て職員室にいる先生に相談しようとした時だった。 「お前、眼鏡は?」 不機嫌そうに、怪訝そうに、彼の声がしたのは。 近くにいることさえ気づかなかった。結構近くにいたみたいだった。声のかけてきた方へと目を向ける。ぼやけながらも人間というシルエットは分かるけど──顔は認識できなかった。 だけど声だけで誰か分かった私は、安心して口元に笑みを浮かべた。 私の隣のクラスの彼。 「あっちゃん」 「眼鏡は?」 いつも通り、不機嫌らしい。 私に対してだけ、機嫌が悪くなるあっちゃん。 「目薬しようとしたら、眼鏡落としちゃって…。ヒビ入っちゃったの」 「はぁ?」 はぁ?と、不機嫌に言われても、割れてしまったものは仕方がなくて。 「……無くて見えんの?」 「ううん。あっちゃんの顔も見えない……」 困ったように笑えば、はあ、と、だるそうにため息をついたあっちゃんは、「マジでバカだな」と蔑んだ声で呟くと少し強引に私の腕を掴んだ。 「……家に帰ったら予備あんのか?」 「うん」 「だる……」 本当にだるそうに言ったあっちゃんは、私の腕を掴んだまま無理矢理歩く。 今日のあっちゃんは〝優しい日〟らしい。 目の見えない私を家まで送ってくれるらしい。 だからつい、嬉しくて口元が緩んでしまう。 いつもあっちゃんは、すごく冷たいから──…。
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