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3
「――だからね、私にも問題はあったのよ」
「そう? そうは思わないけどな」
何杯目かわからないワインを煽りグラスをカウンターに置くと、派手な男はボトルを傾け赤い液体を注いでくれる。見た目にそぐわず振る舞いが洗練されていてスマートだ。
満たされていくグラスをじっと見つめながら、心の内側にあるもやもやを名も知らない男に零していく。
「可愛げがなかったのよ。仕事も大事だったし、彼を蔑ろにしたことはないけどきっと……何かが足りなかったんだと思う」
「だからって浮気が許されるわけじゃないだろ?」
「そうなんだけど」
男の雰囲気に流され、なんだかペラペラと身の上のことを話している。話しやすいというか、聞き上手なのだ。ただ見た目が派手なだけで。
男の耳元で揺れる赤い石をぼんやり眺めながら、造形の美しい横顔を鑑賞する。彫りが深く鼻筋が通っていて、白皙のような肌に影を落とすほど長い睫毛。金と青の髪が似合っているのだから不思議だ。
「私にできることがなかったかって、思ってしまって」
自分にできることはなかっただろうか。
何か努力した方がよかったのか、我慢させてることはなかっただろうか。彼の不安や苦しみに、気がつかなかっただけかもしれない。
発覚してからというもの、そんな風に考えては自己嫌悪に陥っていた。
「気がつかないと駄目なのかな」
「え?」
隣の男に視線を向けると、カウンターに肘をついてじっと私を見つめていた。その姿に小さくドキッと胸が鳴る。単純に顔がいい。派手だけど。
「貴女が気がつかないと駄目? 言いたいことがあるなら言うべきだし、婚約しているならなおさらお互いの気持ちをすり合わせていくべきだろう? 何か不満や寂しさがあるなら貴女に言うべきだ。他の女性に求めるのは筋違いだよ」
「――貴方、派手なのに言うことはまともね」
「それはどうも」
男はにこりと笑うと私の少し明るい茶色の髪を耳にかけた。その指先が耳朶に触れ、頬を擽る。
そんなふうに触れられてもなぜか嫌な気分にはならない。普段なら許さないのに、相当酔っているのか、この派手な男に気を許しているのか。
「それでも……好きだったのよ。彼と結婚できることが嬉しかったの。だから本当に……ショックだったわ」
好きだった。好きだと言ってくれて嬉しかった。彼と過ごす日々は、未来はバラ色に光り輝いていた。
「傷ついてる?」
男がそっと私の顔を覗き込んだ。
近くで見る彼の瞳は真っ青で、とてもきれいだ。なんだか女性の扱いに慣れているし、きっととてもモテるのだろうとぼんやり思う。
顔がいいからと絆されたわけではないと思うけれど、普通の声かけのようにやたら人の容姿を誉め下心が丸見えのガツガツした男たちより、ずっとスマートで居心地がいい。これが彼のテクニックだというのなら、相当女性の扱いに長けている。
「……少しだけ」
ふふっと自虐的な笑いが漏れる。
「許して婚約を続けるって選択もあった?」
「ないわ」
「ないんだ」
即答すると男はふはっと笑った。なんだか適度な距離感が心地いい。
「相手に子供ができたのよ、そんな無責任なことはさせない。ちゃんと子供のために生きてもらわないと」
「はは、優しいねえ」
「優しくなんかないわ」
「まあ確かに? 相当支払わせてるもんなぁ」
「それはそれで足りないくらいよ」
「確かに!」
いつの間にか離れていた席は寄り添うように椅子が寄せられ、脚は男の膝と触れ合っている。そこから伝わる他人の温もりが、なんだか逆に心を落ち着かせた。
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