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第5話 あのワンルームで 【最終話】
「もちろん。どんなこと?」
「淳くんはこのお仕事長いの?」
「んー……そろそろ五年かな? その前はサラリーマンやったり、ホストやってた時期あるよ」
ホスト、そう言われると妙に納得してしまう。
「……初恋はいつだったの?」
「えっとね、幼稚園のとき先生に恋してた……ってありきたりすぎ?」
案外さらっと答えてくれて、きっと他のお客さんも同じような質問をするのだと思った。それじゃあ、と続ける私に彼が耳を傾ける。
「高校のときは好きな子とかいた?」
彼がどんな子と付き合っていたのかは噂で知っていた。
放課後の教室で当時の彼女を膝にのせてじゃれあっていたのを友達と見かけたこともある。だけどやっぱり彼なのだと、さらに確定材料を増やしたいわけじゃなかった。
私だって、当時何度も目が合った。
隣のクラスだから合同授業の時間でペアになったこともある。けがをした彼にばんそうこうを渡したことも。恋愛漫画だったら、恋に発展するような場面が結構あったように思う。
もし、私が田中美香だと気づいていながら今ここにいるのだとしたら、アダルトサイトの広告によくある漫画のように、奇跡みたいなことが起こるのではないだろうか。
絶頂の余韻と密着する体で、浅ましくも期待していたのだ。ありえないことを。
「いたよ」
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