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今日に備えて、先週末は久々にデパートに服を買った。グレージュのシャツに店員に勧められてアイボリーのロングタイトスカートを選んで、上下セットの下着も準備した。昨日は美容院でいつもよりワンランク上のトリートメントをして貰った。
初めて会う、もしかしたら今日が最初で最後になるかもしれない相手にハズレの客だ、と思われたくなくて揃えた結果だ。我ながら結構見栄っ張りだと思ったけれど、いつものネイビーのシャツにウエストがゴムになっているスカートよりはマシだろうし、パーティー用の服ではないのだから、これからいくらでも着ることができる。会社に着ていってもいい。
誰かにどう見られるかを気にして服を選んだのはもう随分と久しいことでこれが正解なのか分からない。そもそも正解なんてあるのだろうか。
そんなことを考えていると、週末だからか、駅の化粧室には同じように化粧を直す人が増えてきた。後ろに人が並んだので少し横にずれて鏡の前に隙間を空けるとするりと隣に人が収まった。ちらりと盗み見たその人の服は淡い色の上下に私より高いヒールを完璧に着こなしている。彼女も誰かと待ち合わせをするのだろうか。少なくとも、風俗店のセラピストではないだろうけれど。
セラピストのジュンくんとの待ち合わせは十九時に新宿三丁目駅を指定した。待ち合わせまでまだ時間がある。
手持ち無沙汰になり会社で直したばかりのリップを塗り直して、無意味に鞄の中の整理をしてからお手洗いを出た。
秋葉原駅から同駅内の岩本町まで歩いて都営新宿線に乗ると十分弱で新宿三丁目駅へ到着した。
地下から地上へ出てスマホで時間を確認すると待ち合わせまで十五分ある。
ジュンくんに到着の連絡をしようかと思ったが、急かすようなので目印になる自分の服の特徴を送った。
これなら移動中のように伝わるだろう。暇つぶしにゲームでもしていようかと思ったそのとき。
「あの……みかんさんですか?」
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