19人が本棚に入れています
本棚に追加
こてんと首を傾げる少女。胸元には『水梨リク・十七歳』とある。長い黒髪のツインテールには、それぞれ白いリボンがついている。目が大きく、睫毛が長く、どこかでアイドルをやっていますと言われても通用しそうな可愛らしい女の子だった。
「はあ、まだ待ってる気?そんなこと言ってたらキリないじゃないのよ」
イライラと足を踏み鳴らしたのは、ピンクのスーツスカート姿の女性。赤茶の髪を書き上げると、随分大きな真珠のピアスが垣間見えた。時計もかなり高そうであるし、かなりお金持ちなのかもしれない。化粧が派手な彼女は、胸元に『米田綾・三十歳』という名札があった。
気が強そうな目元には濃いブルーのアイシャドー。ぎろり、と睨みつけられて思わず委縮してしまう美紅である。
「そ、そうだよリクちゃん。も、もういいじゃないか。ここに五人もいるんだし、一階しか説明してくれないなんてことはないよ、ね?」
もう一人は、お腹がでっぷりと出た中年男性であり、こちらも青いスーツを着ている。どこかおどおどしたように、ゴスロリ少女ことリクを宥めているようだった。彼の胸元には『松岡泰介・五十三歳』という名札が。
どうやら彼らは、自分達より先にこの広間に到着したというわけらしい。
「……うーん、まあ、いいか」
綾と泰介に諭されたからなのか、リクはこちらを見て「えっとー」と告げた。
「お二人さん、こっちへどーぞ!多分ね、このテーブルのボタン押すと、あのモニターになんか出てくると思うんだよね。ほら、悔い改めの儀式とやらは、この部屋で説明するとかなんとか言ってたでしょ?」
「あ、そ、そうですね……」
「この部屋には、何か儀式ができそうな道具もないですしね」
「でしょー?じゃあ、今からボタン押すからね。みんなで一緒に見ようね!」
彼女も拉致されてきた立場であるはずなのに、随分あっけらかんとしている。何かのショーを楽しむような気安さで、かえって心配になるほどだ。
彼女の細い指が、赤いボタンをぐいっと強く押し込んだ。すると案の定、真っ暗だったモニターに砂嵐が流れ始める。そして。
『あーはい、テストテストー!みなさーん聞こえてますか?聞こえてますよね?聞こえなかったら困るんで聞いてくださいねー!』
画面が、切り替わった。
表示されたのは、ピエロのような化粧を施したピンクの猫のぬいぐるみである。まさかあのネコを代理人にするつもりか――そう思った次の瞬間だった。
『あ、どうもどうも皆さんこんにちは!カミサマでっす!』
「は!?」
美紅は、思わずひっくり返った声を上げてしまった。ぬいぐるみにしか見えない猫が――画面の中で人間のように動き始めたからである。
しかも、目や口といった表情、耳や髭まで動いている。本物のイキモノですと言わんばかりに。
最初のコメントを投稿しよう!