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『皆さん、朝です、朝です、朝です。おはようございます、おはようございます、おはようございます!』
耳ざわりな機械のアナウンス。朝です、もおはようございます、も三回も言わなくてもわかるのに――そんなことを思いながら、どうにか瞼をこじ開ける。
視界に入ったのは、白くて眩しい、LEDライトだった。ここはどこだろう、とぼんやりと思う。ただ、頭の後ろが固いこと、背中が冷たくてたまらないことは理解した。
自分は、どうやら寝ていたらしい。それも、布団やベッドではない場所で。
「え!?」
それを理解した途端、美紅はがばりと体を起こしていた。そして自分が、まったく見知らぬ空間にいることに気付くのである。
灰色の、コンクリートの打ちっぱなしの部屋。広さは八畳間くらいだろうか。正方形で、部屋には電気一つと、茶色のドアが一つあるばかり。窓もなく、他に人がいる気配もない。よく見るとドアの上部に、黒いスピーカーらしきものが設置されているのがわかる。どうやら、音声はそこから流れてきているらしい。
『皆さんお目覚めですか?お目覚めですよね?お目覚めでないと困ります。これから、皆さんには、とても大切なゲームをしていただくことになっているのですから!』
機械音声かと思っていたが、ひょっとしたら人間が喋っている声を機械で加工しているだけかもしれない。AIやボイスロイドにしてはやたらとテンションが高いし、喋り方が流暢なような気がする。
なんとなく、男性が話しているような気がした。本当に、なんとなくだけれど。
『その名も、ツグナイゲーム。この空間に集められた皆さんは、我々が集めた〝罪人〟ばかりです。皆さんには、それぞれなんらかの罪があります。それを償っていただくため、相応の罰を受けて頂くため、今回のゲームを企画させていただきました!』
罪人。
その言葉に、どくん、と心臓が跳ねる。
――そうだ。私には、罪がある。
美紅はそっと、自分の両手を見た。
――誰かに裁いて貰わなければいけない罪が……償わなければいけない罪が。だけど……。
じわじわと、嫌な予感が這い上がってくる。おかしい。美紅は自分が来ているTシャツの胸元を見た。そこには名札が縫い付けられており、『苺谷美紅 二十六歳』の文字がある。苺谷美紅、が自分の名前であることだけは覚えていた。でも、二十六歳、という数字がいまいちぴんとこない。
自分の年齢が、思い出せない。
もっと言えば、自分のプロフィールにまつわるあらゆることの情報が――記憶から、欠落している。
――え、え?なんで?なんで私、何も思い出せないの……!?
混乱し、髪の毛をくしゃりと掴んだ。頭を触った感じ、髪型はセミロング。抜けた毛の色からして、ちょっと明るめの茶髪らしいということは理解した。けれどそれだけだ。己の顔もわからない。苺谷美紅、という名前以外の全てが記憶から欠落している。
いや、二つだけ。
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