<1・罪人さん、いらっしゃい。>

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 自分が罪を犯したという認識と、そのために雨の中をさ迷っていたということだけは覚えているが、それだけだ。何の罪を犯したのか、何を後悔していたのか、それがさっぱり思い出せない。  記憶喪失。その四文字が、冷えた頭の中を横切っていく。 『我々は、〝カミサマ〟です。この世界の、〝カミサマ〟なのです。この世界では定期的に、法で裁かれない罪人を裁くための儀式が行われます。それがこの、ツグナイゲームなのです。いいですか、皆さんは罪人です。罪人なのです。それをまずは認識しましょうね?』  神様。  なんとまあ、けったいな名を名乗ったものである。自分達は人外だと言いたいのか、あるいは怪しげなカルト教団か何かなのか。  ただ、美紅の記憶がないのも彼らの仕業なら、本当に神的な存在ということもなくはないのかもしれない。人の記憶をきれいさっぱり消し去る薬なんて、現代の科学で作れるとは思えないからだ。 『このゲームをクリアする条件は簡単です。一つ目は、皆様が自分の罪を自覚し、それを心から悔い改め、悔い改めの儀式をすること。二つ目は……他の罪人の方々を全て消し去ること』 「は!?」  今なんて言った?と目を向く美紅。  このアナウンスの言葉通りなら、この施設の中には自分達以外にも人間がいる、ということはわかる。何人いるかは定かではないが、まさかその者達と殺し合いをしろとでも言うつもりだろうか。 『この空間はとーっても広いんです。皆さんは今、ビルの建物の中のような場所にいると考えていると思いますが、屋外っぽいエリアもあるし、変わり種の施設なんかもあります。でもって、武器と罠もてんこもりだし、食料とか水もきっちり用意されているわけですねえ!だから長期戦になっても大丈夫だし、武器があるのでひ弱な女性や子供、老人にも充分にチャンスがあるというわけです。罪を認めたくない人、どうしても認識できない人はこっちのクリア方法を試してみましょう!』  あっけらかんと告げる声に、茫然とするしかない。  やはり、聞き間違いではないのだ。消し去るというのはつまり――殺す、ということに他ならない。  罪を悔い改めるつもりがないなら、他の罪人をまとめて殺せと。それがこのゲームの趣旨だと言いたいのだ。 「な、なんで、そんな……」  美紅の声が聞こえたのか、あるいは偶然か。「今、なんでって言った人いるでしょ?」とアナウンスが少し不機嫌そうに告げる。 『だああああああああかああああああああああらああああああ!……あなた達は罪人なんです。だーかーらーこんなところに連れてこられちゃうんです!しかも法律で裁かれないせいで普通の刑務所に入ることもできなくて……我々が手を下すしかなくなっちゃったんですよ!いやほんと、迷惑かけないでほしいですよね!カミサマはおこです、おこ!』  そんなこと言われても、と泣きたくなってしまう。  確かに自分は罪を犯した。それを自覚してはいる。しかし。 ――き、記憶もないのに……!
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