<1・罪人さん、いらっしゃい。>

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 思い出せないのに、反省なんてできるはずがない。  だからといって、殺人なんて、そんなこと――! 『自分の罪がわからない人!心当たり多すぎて困っちゃってる人!そんな人達もいるとは思います。でも安心してください。この施設の中にはコンピューターもあるし、紙ベースの資料もあります。皆さんの情報は空間のあっちこっちに散らばっていますから、それを探していけばおのずと己がここに呼ばれた理由もわかるようになってくるはずです!それを見てから、自分が選ぶべき道を考えるのもまたヨシでしょう!』  いいですかあ?と陽気に声が続ける。 『みなさんは罪人です。つ・み・び・となのです!クリアの方法は二つに一つ。自分の罪を思い出して悔い改めて儀式を行うか、他の参加者をミナゴロシにするか!あ、悔い改めの儀式を行う場所については、皆さんがいる部屋の廊下にでも案内出してあるんで、それに従って進めば辿り着けるようになってます!内容は、その場所で説明しますのでご安心を!』  あのドアの向こうか、と美紅は茶色のドアを睨む。どうやら廊下になっているということらしいが。 『皆さん、ルールは理解しましたね?タイムリミットはありません。食料や水、シャワーやトイレ、着替えなんかもちゃんとあるので長期戦になっても大丈夫!……それでは、皆さんの部屋のドアのロックを解除しまぁす。ではでは、楽しいゲームにしてくださいねえ!』  ぶつ、という音と共にアナウンスが途絶えた。ぎぎぎぎぎ、という音と共に茶色のドアが開いていく。その向こうには、左右に伸びた薄暗い廊下があるようだ。近くに人がいるのか、微かな話声や足音も聞こえてくる。 「……何が、楽しいゲームなんだか」  滅茶苦茶だ。あまりにも、勝手がすぎる。ただ。 ――行くしか、ない。  わかっていることが、一つだけある。このまま部屋でじっとしていても、自分は自分を思い出せないだろう、ということ。そして。 ――思い出さなきゃ、償えない。  どんな罪を犯したのか、忘れたままでは何も解決しないということ。  自分は、何かを償わなければいけない。  知るのはとても恐ろしいけれど、それでも――このまま死ぬのが、きっと一番許されないことなのだ。それだけは、理解している。 「……行こう」  自分を鼓舞するように、呟いて。美紅は重たい腰を上げたのだった。
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