<2・不思議な人との出会い。>

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<2・不思議な人との出会い。>

 そっと廊下を覗き込む。  どうやら自分がいた部屋は廊下の突き当りにあったらしい。部屋の中から見たら左右に通路が伸びている印象だったが、左はすぐ壁で他には何もなかった。どうやら右に行くしかないようだ。 ――暗い……。  灰色の、狭い廊下が続いている。照明は弱くて頼りなく、陰鬱な雰囲気だった。目を凝らしてみると突き当りは右に曲がっているようなので、その向こうに新しい階段かドアがあるということなのかもしれない。  途中にいくつか茶色のドアがあるのが見えたがどれも閉まっていた。このエリアには自分しかいないのか、あるいは他の部屋にいた人はまだ部屋から出てきていないのか。 ――実は地下なのかな、ここ。窓がまったくない……。  天井は低く、恐らく一般的な成人女性サイズであろう美紅の身長であっても閉塞感を覚えるほどだった。幅もなんだか狭い。大人が数人並んだら詰まってしまいそうである。 ――とりあえず、今は情報を集めないと。というか、私自身のこともわからないなんて相当まずいよ……。  冷たいコンクリートの床をひた、ひた、と歩いていく。少し涼しすぎる空間だった。足元が茶色のサンダルなので少し肌寒さを覚える。  幸いにして、途中に鏡が貼られた壁があった。ここでようやく、美紅は自分自身の姿をしっかりと確認することに成功する。 「……これが、私」  そこに立っていたのは、確かに二十六歳くらいの女性の姿だ。少しウェーブした茶色の髪に、目が大きくて、少し気弱そうな印象を受ける顔立ちをしている。特別美人でもなく不細工でもなく、正直あまり印象に残らないタイプの顔だろう。精々何か特徴を言うのであれば、胸がちょっと大きめな気がする?くらいだろうか。  着ている服は随分と地味でしゃれっ気のないものだった。少し緑かった無地の白シャツの下に、深緑色っぽい長そでのインナーを着ているらしい。下は藍色のジーンズで、足元はどこか履き古した印象のサンダル。少し涼しすぎるが、非常に歩きやすいので履きなれた靴なのだろう。  左胸には名札があり、『苺谷美紅・二十六歳』と書かれている。なんで年齢まで書く必要があるのかはまったくわからない。 「どうしよう……全然、見覚えがない」  何度まじまじと観察しても自分の顔に見覚えがなかった。どうして記憶を失っているのだろう。さっきのアナウンスの印象だと、他の人は自分の罪がなんなのかわかる余地がある=記憶喪失になっていないと受け取れるのだが。  暫く観察したものの、結局それ以上得るものもなく、諦めて美紅はその場を離れた。名前だけでも覚えていたので、それでもう良しとしよう。鏡を離れて、再び廊下を歩き始める。
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