<2・不思議な人との出会い。>

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 突き当りの右に通路を折れると、そこには上へ続く階段があるようだった。一本道だし、ここを登るしかなさそうだ。美紅が階段に足をかけた、その時だった。 「あの」 「きゃあああああっ!?」  突然、背後から声をかけられた。驚きのあまり、その場で尻餅をついてしまうことになる。  そこに立っていたのは、一人の青年だった。長身で優し気な顔立ちをしている整った顔立ちの男。名札には『椎葉月(しいばつき)・二十五歳』と書かれている。童顔なのでもう少し年下かと思ったが、そうではないらしい。 「だ、だ、誰!?」  いや、冷静に観察している場合ではない。美紅の様子に青年はしばらく固まっていたが、やがて「怪しい者じゃないですよ!」と両手をひらひら振ってアピールした。 「僕もこのゲームに参加させられた者です!お、落ち着いてください。パニックになるのもわかるけど、あなたに危害を加えようとかそういうのはないので!」  彼は座り込んだ美紅の前にしゃがみこむと、ほら、と名札を示してみせた。 「僕、椎葉月、といいます。椎葉が苗字で、名前が月、です。ちょっとお洒落な名前でしょ?自分でも気に入ってるんですよ。植物と月だなんていいでしょう?」 「あ、は……はい」  こんな状況なのに、どこかおっとりと告げてくる月。まるで保育士が子供に接するように、はんにゃりと微笑みかけてくる彼に、段々警戒心を解かれる。  そうだ、他に参加者がいてもおかしくない。そして、普通の人間ならば、〝罪を償う儀式〟の方法とやらもわからないのにいきなり人を殺そうとなどしないだろう。ましてや、他人を殺して生き残れるのは一人でも、恐らく儀式とやらをやって生き残れるのは一人ではない。真っ当な感性を持つ者ならそっちを選ぶはずだ。 「ご、ごめんなさい。びっくりしちゃって。恥ずかしいです……」  慌ててぺこぺこと頭を下げる美紅。なんだろう、初対面なのに、この人は悪い人ではないと直感で思う。声をかけたのも、ひょっとしたら美紅がビビリ散らかしていることに気付いたからかもしれない。つまり、心配してくれたのかもしれない、と。 「気にしないでください。えっと、苺谷美紅さん、でいいんですよね?名札の名前」 「は、はい。多分」 「たぶん?」 「……その、私、記憶がないんです。かろうじて名前だけは覚えてたんですけど、自分に関することが全然思い出せなくて」  自分で言えば言うほど不安になってくる。  髪型とか服の名称が頭に浮かんだということは、一般常識を失っているわけではないのだろう。しかし、自分の顔を見ても全く自分自身だという感覚がない。己が女であることは鏡を見る前からぼんやりと自覚していたが、それくらいだ。
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