天使の苦悩

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 天使と悪魔が人間の善悪を司るのは人を生き永らえさせるためだ。人間は善ばかりを選んで行動しても自身を滅ぼす。反対に悪ばかりに傾いても他者を滅ぼす。せっかく作った人間が早々に死んでは甲斐がないと神様がサポート役を作り上げた。それが天使と悪魔なのだ。  基本的に天使は天国に住み悪魔は地獄に住む。わざわざ互いのところまで出向かずとも、普段は人間の心にアクセスしてモニター越しにやりとりを行うこともできる。ただ、サイアンが人間界でお気に入りのものを見つけてきたときには、こうして地獄に招かれるのだ。  天国から地獄に降りるのは時間も手間もかかる。だがミゲルはこの提案に救われていた。たまに見る地獄の風景と悩みを打ち明けられるサイアンの存在は、首元にまとわりつく雲を少しばかり緩めてくれた。 「今日もまた一段と香りが格別だ。味わって飲んでくれよ。」  気が付けばマグカップを二つ手にしたサイアンが目の前にいた。 「ああ、ありがとう。」  差し出されたカップを受け取って口に含む。最近ようやくコーヒーの味の違いが分かってきた気がする。
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