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「ミゲル、お前それ天国で誰かに話したか。」
突然低くなった声色に少し体をこわばらせて首を横にふる。
「そうか…。ここから先のことも喋るんじゃねえぞ。なぁ、なぜ俺たちが人間が生きるのをサポートしているかわかるか。」
「神様が知的に劣る、愚かな生き物の死を悲しんで慈悲を与えるために私たちを作ったのだからそれが使命なのでは…?」
「そう、そうやって教えてもらうよな。じゃあその神はどこにいると思う?どんなやつだと思う?」
「平天使には知る権限は無いと、ただ天国よりさらに上の世界にいるのかと…。」
「残念、もっと下だ。そしてお前は知らずともすでに関わっている。」
「下って…。しかも関わっている…まさかサイアンさんじゃないですよね?」
「そのまさか、とかなら面白そうだがあいにくただの悪魔でね。なぁミゲル、神の正体ってのはな、人間なんだよ。」
「……は?」
「ミゲルよぉ、天使にしては人間臭いお前なら考えたことないか。なんで人間の作り出すものを俺たちは触れたことも習ったことも無いのに知っているのかって。直前まで知らないものでも俺たちが行動させるときには知っているだろう。俺たちが人間に指示を出してるんじゃない。人間の思考する中に俺たちが突っ立っているだけだ。」
嘘だ、と呟こうとしても図星を突かれた脳が声を発することを拒んだ。
「人が思考するうえで善と悪を作り出した。そしてその狭間で苦悩するときに逃げ道を作った。それが天使と悪魔。天使なんてのはお飾りだがね。大事なのは悪魔さ。心の弱さに勝てなかったとき、悪の誘惑から逃れられなかったとき、人間はそれを悪魔のせいにした。」
「そんな…信じられませんよ、じゃあ僕たちが存在してる意味はなんなんですか!僕たちのいるこの世界は何なんですか!」
「だから言ったろ、俺たちは人間の逃げ道だ。自分に言い訳するためのな。それ以上の意味はねぇよ。この世界の成り立ちに関しちゃよく知らねえが、おおかた人間の仕業だろうな。あいつらはどうも昔から目に見えないものを妄信する癖がある。長い時間が経ってそれが本当になったんだろうな。勿論、当事者はそれに気が付いていないが。」
「じゃあ…じゃあ僕達はいてもいなくても変わらないじゃないですか。」
「そうだ。どうしたよ、そんな落ち込むことか?どうせ今の任務にやりがいも何も見出せてないなら大して変わらんだろうに。」
それ以上のサイアンの言葉はどれだけ耳を通っても滑るように通り抜けていった。
「お前さんよぉ、受肉してみるか?」
やっと引っかかった言葉は文字通り悪魔のささやきだった。
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