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そうして人間界に降り立った。サイアンはなぜか人間の肉体を持ち人間として生きる方法を知っていた。本来、任務以外で立ち入ることの極めて難しい人間界と地獄を出入りしていた彼ならば、案外造作もないことなのかもしれない。
降り立ってから人間で言うところの27年間を過ごした。新鮮さも生き甲斐も、降りた当初は感じていたが今は天使でいた時と大して変わらない。生きていくために立場が上の者に仕えて大人しく指示を聞いてそれ通りにこなすだけ。自由な選択につきまとう代償を考えればそれでもきっとマシな方だろう。生きていくため。生きていくためだ。
雲の代わりに真綿が首元を閉める。
天使の時にはもっと自由に見えたんだけどな。こんな状況を人間風に言うなら「隣の芝生は青い」と言うやつらしい。
東京行き快速の電車が口を開いた。今度はついた溜め息も気にならぬままに、溢れそうな苦悩に身を詰め込んだ。
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