それぞれの天使。

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それぞれの天使。

 十日後。  意気揚々と販売会の会場を後にする。傍らの西本が二袋、私も二袋、グッズの入った袋を提げている。ありがとね、ときちんとお礼を口にした。 「俺がいなかったら自分で四袋を持って帰ったのか」 「もち! と言いたいところだけど、この量なら宅配便で送ったかな」 「しかしやっぱりお前は凄い。今まで見た覚えの無い程、目を輝かせてグッズを籠に放り込んでいたものな」 「そりゃあ推しのためだもの。熱量も上がるさ!」  そうか、と西本は目を細めた。私のそんなところが、君は好きなのだっけか。急に恥ずかしくなって俯く。あの日の告白以来、会社では普通に接していた。もしかして今日も来ないのではないかと疑った瞬間もあった。だけど集合場所と時間について連絡が来て、本当だったのだ、と改めて実感した。八年も私を好きでいてくれて、だけどずっと自分の中に押し込めていたのだ。じゃあ今は? よくわからないと返されて、だけど隣を歩いている、今この瞬間、彼はどんな感情を抱いているの?  その時、足元の感覚が無くなった。ハッと気付くと二段ほど、割と高さのある階段に差し掛かっていた。しまった、考え事をしていて踏み外してしまった! しかし時既に遅し、体のバランスは崩れている。両手には推しのグッズ。放り出すわけにもいかず、かと言ってこのままでは受け身も取れない。どうしよう! と一瞬の間に困っていたらば。  そっと、抱き留められた。時間にして恐らく一秒か二秒。だけど布越しに彼の体の硬さを感じていたのは数分にも思えた。  大丈夫か、と聞き慣れた声を掛けられる。すぐに私から離れた。本当に堅物だね。 「うん。ありがとう」  答えながら、段差で転ばないようあらかじめ構えてくれていなければ絶対に間に合わなかったに違いない、と確信する。ぐるぐると感情が回り始める。好きなものに真っ直ぐ向ける私の熱量は巨大であるのです。故に鼓動がどんどん高鳴っていく。ちょろいなぁ、私。やれやれ。西本さぁ、と口を開く。 「君にとっての私は天使だとか言ったよねぇ?」  その問いに、あぁ、とまたしても即答した。そっか、と短く応じる。 「急にどうして確認をする」 「いや別に」  さて、私はずっと君の天使でいようか。そして君もまた私の天使に成るだろうか。もうしばらく、一緒に過ごしてから決めよっかな。取り敢えず今日明日の旅行はよろしくね、堅物紳士君。  あぁ、そして。グッズのおかげで私は相方を見付ける切っ掛けを掴めたのかも知れない。これはますます、ご当地ブイチューバーの推し活に励まなきゃかもな! ねーっ、私の天使ちゃん!
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