天使とは。

1/1
前へ
/1ページ
次へ

天使とは。

 天使とは。  神々に仕え、時には人間に神の言葉と伝え、時には神の意向に従い、人々を守護する存在である。  そう、神の意向こそ天使の行動原理である。  「やっと終わった・・・・・・」  赤黒く染まった剣を振ると、地面に赤黒いシミが無数にできあがる。そしてそれは白いブーツ、白いスーツのズボンの裾にも飛び散っていた。白い手袋であったであろうそれは、すでに大半を赤黒く染めているためか脱ぐのも一苦労なようで、ようやっと脱げた時にはそれはさっさと捨てられてしまった。詰襟を乱暴に外したその姿、要望からは厳しく縛られた規律が垣間見えた。  一息を吐きながらその辺の段差に腰掛けると周りを見回すが、動いているものは何もなく、壊れかけた建物とおぼしき残骸と、すでに事切れた人間の成れの果てが転がっていた。それを何の熱のない眼で見つめていると、不意に精神を干渉された。  ー終わりましたか、ユーノスー  さっきまでの熱のない眼が嘘のように光を取り戻す。  「ええ、ご意志通り完遂しました」  ーそうですか、ご苦労様でした。お疲れのところでしょうが、急ぎ次の場所へ向かってくださいー  「ええ、承知しました。我が神」  干渉から解放されると、肩の力が一気に抜けたようだ。先ほどまで光っていた眼が輝きを失い、背筋が丸まった。  「・・・・・・めんどくさいな・・・・・・」  天を仰ぎながらこんなこと言ったその顔は、酷く笑っていた。そして踏ん張るように立ち上がると目を閉じた。  「すべては神の御心のままに」  そう唱えると、背中が光りだし大きくたくましい翼が出現した。ユーノスはそれを羽ばたかせると、瞬き一つしている間に、姿が見えなくなっていた。ユーノスが消えた後、そこには無数の血と肉塊、鉄と死の臭いが漂っていた。  天使は、神の意向こそ天使の行動原理である。 ゆえに、そこに人間の意向など反映される余地もないのである。  
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加