0人が本棚に入れています
本棚に追加
天使とは。
天使とは。
神々に仕え、時には人間に神の言葉と伝え、時には神の意向に従い、人々を守護する存在である。
そう、神の意向こそ天使の行動原理である。
「やっと終わった・・・・・・」
赤黒く染まった剣を振ると、地面に赤黒いシミが無数にできあがる。そしてそれは白いブーツ、白いスーツのズボンの裾にも飛び散っていた。白い手袋であったであろうそれは、すでに大半を赤黒く染めているためか脱ぐのも一苦労なようで、ようやっと脱げた時にはそれはさっさと捨てられてしまった。詰襟を乱暴に外したその姿、要望からは厳しく縛られた規律が垣間見えた。
一息を吐きながらその辺の段差に腰掛けると周りを見回すが、動いているものは何もなく、壊れかけた建物とおぼしき残骸と、すでに事切れた人間の成れの果てが転がっていた。それを何の熱のない眼で見つめていると、不意に精神を干渉された。
ー終わりましたか、ユーノスー
さっきまでの熱のない眼が嘘のように光を取り戻す。
「ええ、ご意志通り完遂しました」
ーそうですか、ご苦労様でした。お疲れのところでしょうが、急ぎ次の場所へ向かってくださいー
「ええ、承知しました。我が神」
干渉から解放されると、肩の力が一気に抜けたようだ。先ほどまで光っていた眼が輝きを失い、背筋が丸まった。
「・・・・・・めんどくさいな・・・・・・」
天を仰ぎながらこんなこと言ったその顔は、酷く笑っていた。そして踏ん張るように立ち上がると目を閉じた。
「すべては神の御心のままに」
そう唱えると、背中が光りだし大きくたくましい翼が出現した。ユーノスはそれを羽ばたかせると、瞬き一つしている間に、姿が見えなくなっていた。ユーノスが消えた後、そこには無数の血と肉塊、鉄と死の臭いが漂っていた。
天使は、神の意向こそ天使の行動原理である。
ゆえに、そこに人間の意向など反映される余地もないのである。
最初のコメントを投稿しよう!