天使は未来を希(こいねが)う

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「ヒャッホー、さすが天使軍だ! こいつはまた、俺たちの出番はねぇな」 派手な撃墜を目にした同僚の兵士は祭りのように騒ぎ立てる。 シオンはその様子を見て、冷ややかな気持ちになる。お前らは何のために訓練をしているのだ、と。 しかし、何人かの天使たちは撃ち落とされ、まるで紙屑のように力なく落下していく。天使と称される彼らは、人々のために命を燃やしてこそ神に迎えられるのだと、教官の講義で教えられた。だから誰一人、彼らの死を悼む者はいない。 シオンは出動命令が出ればすぐさま戦闘艇に乗り込むつもりだった。得体の知れない天使軍に手柄を取られたくなかったのだ。 だが、空の戦いは徐々に自軍が優勢となり、敵の空母はついに天使たちに囲まれた。総攻撃の号令が下ると、天使たちはいっせいに炎の雨を降り注がせた。 空母は火を噴き、大地へと沈んでいった。 「ハッハッハ、今宵は皆で、勝利の祝杯を挙げようぞ!」 モニターの中で、軍を統率している最高司令官グスタフの勝利宣言が響いた。その背中には、大きな漆黒の翼が広がっている。 「グスタフ司令官、万歳!」と兵士たちは声を上げ、いっせいに拳を空に掲げた。 エルデランドは、しばしば翼を持つ者が生まれる不思議な土地である。 思春期になると背に白い翼が生える者がいるが、それはさほど珍しいことではないらしい。けれどシオンは実物の天使を見たことがなかった。 一方、極めてまれに死の淵で黒い翼を授かる者がいるという。その恩恵を受けた者は高い身体能力を手に入れ、奇跡の象徴として扱われる。古くから黒い翼を持つ者が戦いを導く立場となり、国の富が築かれてきた歴史があった。
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