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リリアは男性用の衣服をまとい、服の中に翼を隠し込む。さらにコートを纏い、帽子と顔隠しで頭を隠しきった。
準備が整うと警備兵の目をかいくぐり街中へと繰り出す。リリアは緊張した様子でシオンの後ろをついてきた。
「大丈夫、誰も君が天使だとは気づかないよ」と声をかけ、繁華街の往来に紛れ込む。
「ここが市場だよ。新鮮な野菜や果物がたくさん売られているんだ」
「わぁ、こんなにたくさんの食べ物があるなんて、信じられない!」
賑わう商店街、行き交う人々の笑い声、カフェから漂うコーヒーの香り――リリアにとってはすべてが新鮮なようで、まるで路地裏を探検する猫のように瞳を輝かせて店を行き渡る。
ふたりはカフェに立ち寄り、紅茶を注文した。リリアは一口飲んで「あちっ!」と言い、舌を出して手で仰ぐ。
シオンは「猫舌なのか。冷ましてあげようか?」と面白そうに笑った。リリアは子ども扱いされたと思ったのか、ぷーっと頬を膨らまして怒った。
店内のスクリーンにはニュースが映し出された。目を向けると、天使が一羽、行方不明になっているという報道があった。シオンはすぐにそれがリリアのことだと気づいたが、「一羽」という呼び方には憤りを覚えた。
「あんな報道、気にするな。君はただの女の子だ」
今日だけは戦いのことなど忘れてくれと、シオンは心の中で願っていた。けれどリリアは思いつめた顔をしている。
「でもわたし、今日が終われば軍に帰るつもり。そうでないと、きっとシオンに迷惑をかけちゃうから」
この国で軍に逆らうことは重罪であり、極刑に値する行為だ。軍が管理する戦いの要員である天使を隠匿すれば、罪を問われることに疑いはない。
「だけどさ、ほかの国では天使が戦いに参加したりしていないだろ? 軍の兵士がいるのに天使を戦いに駆り出すなんて、どうかしているよ」
シオンはこの国だけが天使を戦いに駆り出していることに疑問を抱いていた。リリアにどうしてかと尋ねたが、「うーん、どうしてだろうねぇ」とはぐらかすように目を背けられた。
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