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街が深い眠りに包まれた頃、シオンはまとめた荷物を背負い、静かに宿舎を後にした。
もう、軍には二度と戻らない。戻れないのだ。シオンは一度だけ振り返ってから、リリアの手をしっかりと握る。ふたりは夜の闇に紛れて橋へと向かった。
周囲に気を配りながら、足並みを揃えて歩き出す。闇の奥深くまで続く橋にはところどころに炎が灯り、まるで通り過ぎる者を睨みつけているかのようだ。時折、棟の窓から番人の放つ光が地面を照らし出す。
橋の外壁に身を隠すように、一歩一歩慎重に進んでいく。何度か光が近くを通り過ぎたが、何事もなくやり過ごすことができた。
しかし突然、光の数が増え、ふたりを狙い撃つように照らし出した。
不安そうに寄り添うリリアに、シオンは確信のある声で言う。
「いや、きっと俺たちを確かめて見逃し――」
その瞬間、腹部に強烈な衝撃が走った。勢いで体がよろけ、膝をつく。少し遅れて感じた痛みの部位に手を当てると、ぬるりとした生温かい感触があった。見るとおびただしい量の血が溢れていた。
「うそだろ……?」
そう呟くことすら、ままならなかった。
遠くで「脱国者だ! 捕えろ!」という叫び声が響き渡る。シオンは賄賂が見張りの男の懐で止まり、狙撃手に渡っていなかったのだと察して絶望した。
「シオン! シオン!」とリリアは必死に呼びかける。けれど、早足の靴音がいくつも迫り、ふたりを包囲した。
「へへっ、女と亡命とはいい度胸じゃねえか。当然の報いだ」
「お願いです、見逃してください!」
だが、男たちに願いを聞く耳などない。容赦なくリリアを捕えた。
「おっ、この女、なかなかの上玉じゃねえか」
「いやっ、離して!」
「わかっているだろ? どうせ殺されるなら、その前に俺たちを慰めてもらおうか」
下卑た笑いに、リリアの心が凍りつく。脱国に失敗した者がどれほど残酷な仕打ちを受けるか、噂で聞いたことはあった。
無情にもリリアの服が引き裂かれる。直後、男たちが感嘆の声をもらす。
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