天使は未来を希(こいねが)う

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「おおっ!? こいつは天使じゃねえか!」 「第二空軍のくせに逃げようってことは、それこそ重罪だな!」 「飛ばないように羽を掴んでろ!」 「いっ、いやああああっ!!」 男たちの手が無垢な素肌を容赦なく(けが)してゆく。 「なにせグスタフ司令官も、脱国者は見せしめになるよう、残酷に葬れとおっしゃっているからな」 シオンの意識にリリアの泣き叫ぶ声が届く。けれど体は思うように動かない。興奮する男たちとは対照的に、シオンは全身の体温が奪われてゆく。 シオンは戦いの中で命を落とす覚悟はしていた。どうせ迎えるのは地獄に決まっているのだということも。 だが――誰がこんな世界にしたんだ! 誰が世界を狂わせたんだ! 朦朧とした意識の中で怒りに打ち震える。 すると突然、全身に虫が這いずり回るような禍々しい感覚が襲ってきた。命の灯が消えそうだというのに、体の芯よりも深い場所から湧き出るような、得体の知れない力がみなぎってくる。 シオンは突然、跳ね上がるように身を起こし、己の両足で地に立った。 「貴様ら、その汚い手を離せ!」 服の背部が盛り上がり、圧力に耐えきれず引き裂かれる。シオンの頭上には、雄大な漆黒の翼が広がっていた。 「……ひっ!」 男のひとりがシオンに起きた異変に気づいて悲鳴を上げた。 刹那、シオンはその男の喉元に手刀を突き立てた。一瞬の斬撃の後、首からは噴水のような勢いで血が吹き出し、男は白目を向いて地に伏した。 「あっ、あっ……こいつ、黒い天使に目覚めやがったぁぁぁ!」 恐怖におののいた男たちはリリアを突き倒し、銃を投げ捨ててその場から逃げ出そうとした。だが、シオンに容赦の二文字はなかった。 手に取った一丁の銃を構える。直後、弾丸が男たちの頭蓋をことごとく打ち抜いていった。男たちは走りながら崩れ落ち、全身を痙攣させて息絶えた。
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